| 道はみんなのものクルーサ文 岡野富茂子・岡野恭介 共訳 モニカドペルト絵 さ・え・ら書房2013年1月発行 ISBN978-4-378-04136-0 本の詳しい紹介はこちら |
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つまらなさそうに遠くの町並みを眺めている子どもたち。下に広がるのは、近代的なビルと大きな道をどんどん走っているトラックやバス。表紙から裏表紙にまで続く1枚の絵で対比されるトタン板の家の建つ赤茶けた場所との違いにびっくりすることでしょう。
ここに描かれているのは、ベネズエラの首都カラカスです。南米北部、カリブ海に臨む自然豊かな国ベネズエラは昔はコーヒーなどの輸出で有名でした。1920年代に入って石油輸出を始めると、地方の町や村から人々が都市へやってきました。カラカスでも、街を取り巻く山の斜面に急ごしらえの家を建てて仕事を求めてやってきた人たちが暮らし始め、そのようにしてできた集落が「バリオ」と呼ばれています。
山の自然はすっかりなくなり、子どもたちの遊び場所は、家々の間の狭い道だけ。それでも、うるさいと怒られ、車が入ってくると「こんなところで遊ぶんじゃない」と怒鳴られる始末。「道はみんなのものだよ」と口答えしても、大人は誰も聞いてくれません。それで表紙の子どもたちはふくれっ面をしていたのですね。
バリオの中には普通の家を改造した図書館がありました。本を読んだり、ゲームをしたり、 粘土遊びやお絵かきもできるけれど、やっぱり外で遊びたい。どうしたら自分たちの遊び場が持てるのかと考え込んでいると、図書館員が子どもたちの意見に耳を傾け、背中を押してくれたのです。「遊び場がありません。公園を作ってください」と書いた横断幕と意見書を持って、市役所に出かけた子どもたちは市会議員か市長に会わせてほしいと言うのですが・・・。
この絵本は、バリオに住み、遊び場がほしいと願っていた子どもたちが実際に体験したことを元にしたお話なのだとか。子どもたちの行動力が頼もしく、市会議員の欺瞞や大人の身勝手さにびっくりしつつも、この1人ひとりの有り様が社会そのものを表しているのだなと感じられます。
やがて、自分たちの手で公園を作り始める住民と子どもたちの姿に、読者も嬉しく思うはず。自分たちの思いをしっかりと伝えて、自ら行動する子どもたちを支え、見守る大人が図書館にいることが素敵。本の力、教育の力を大切に思っている作家ならではの作品です。
(ほそえさちよ)