2015年6月17日

日本ラテンアメリカ協力ネットワーク『そんりさ』連載記事より(その10)

CLIJALの活動から~ いたずら大好き ブラジルの「サシー(SACI)」

小高利根子

 今回はブラジル人なら誰でも知っている伝説上のキャラクター、「サシー」をご紹介
しましょう。

 サシーは赤い三角帽子をかぶり、口にはいつもキセルをくわえ、一本足でピョンピョン歩いて、いろいろ悪さやいたずらをする黒い小人。どんな悪さかと言えば、ミルクを酸っ
ぱくしたり、ハサミを隠したり、鍋の煮豆をこがしたり、スープにハエを入れたり…。家の中だけではありません。馬をおどかしたり、洗濯物をからませたり、鶏の卵を孵化させ
なかったり…。ありとあらゆるいたずらをして人を困らせては愉快がるのです。

 このサシーについて書かれた本や絵本はブラジルにたくさんありますが、昨年暮れ、日本でも『いたずら妖怪サッシ 密林の大冒険』の邦訳が出版されました。これは著名な文
化人、モンテイロ・ロバートの絵本『黄色いキツツキ農園』シリーズのうちの一巻『サシー』の翻訳です。タイトルは『サシー』ですが、その他にもクルピーラ、ボイタタ、牧場のネグリーニョ、オオカミ男、クッカ、水の精イアラなどが次々と登場し、ブラジルの伝説上の主だったキャラクターを一挙に紹介している感があります。

 さてこのサシーはブラジル人の現代の日常生活の中ではどんな形で登場するのでしょうか? 筆者はブラジルに通算25年ほど住んでいますが、人間関係をスムーズにするためにサシーはとても重要な役割を果していると思っています。

 何か失敗したとき、誰よりも本人が後悔したり、しょげかえっているはず。そんなとき、まわりの人が「あっ、それはサシーの仕業だ!」と言ってくれたら、どんなに救われることでしょうか。

 ブラジル人とつき合っていると、人をとことん糾弾して断罪するようなことは極力避けようとしていることが良くわかります。こんな国民性にサシーはぴったりのキャラクターなのかも知れません。世の中には「サシーの仕業」ということにすれば丸くおさまるようなことはたくさんあるはず。本当に糾明しなくてはいけないような重大なことでなければ、せいぜいサシー君に登場してもらって「一件落着」ということにしてはどうでしょうか?

★現在入手可能なサシーについての日本語の本
①『いたずら妖怪 サッシ 密林の大冒険』
 モンテイロ・ロバート作 小坂充雄訳
 子どもの未来社 2013
②ブラジルの民話 第二集『サシ・ペレレー』
 シセロ・ソアーレス作 
 小高利根子訳 インターナショナル・プレス 2007

★日本語でのSACIの表記は統一されていませんが、アクセントがCIにあるので、本稿では「サシー」としました。