【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.7 絵本で知るメキシコの宗教文化
19世紀初めまでスペインの植民地だったメキシコは、他の中南米諸国と同様、国民の多くがカトリック教徒です。しかしマヤやアステカなどの高度な文明が栄えたこの地では、植民地化とともにもたらされたキリスト教を、独自のかたちでその文化に根付かせました。
「おばあちゃんのちょうちょ」はメキシコの重要な宗教行事の一つ、11月の「死者の日」を描いています。故人を偲ぶ行事であることから、よく日本のお盆にたとえられますが、一方ではにぎやかでフォトジェニックなお祭りとして紹介されがちです。ディズニー映画「リメンバー・ミー」でも取り上げられました。本書はそんな死者の日の本来の姿を、静かに厳かに描き出します。
「ちょうちょ」はメキシコで越冬することで有名なオオカバマダラのこと。チョウは洋の東西を問わず、古の昔から死者の魂との関わりを連想させる存在です。チョウたちが北へと飛び立つ春、大の仲良しだったおばあちゃんを亡くした少女。悲しみを拭い去れないまま次の死者の日を迎えた彼女のもとに、チョウがひらひらと舞い戻ってきます。一匹、二匹・・・、やがてお墓は金色の羽ばたきでいっぱいに。少女はようやく「たましいは、いつもわたしたちのそばにいるの」と教えてくれたおばあちゃんの言葉を理解します。
死者の日の後にはクリスマスがやってきます。クリスマスといえばポインセチア。スペイン語で「ノチェブエナ (クリスマス・イブ)」と呼ばれるこの花は、メキシコが原産です。クリスマスと結びついた理由には数々の言い伝えがあり、『ポインセチアはまほうの花」もその一つ。父親の失業で今年はイエス様や家族にクリスマスの贈りものができない、と気に病む心優しい少女にクリスマス・イブの夜に訪れた奇跡が、温かくメキシコらしさにあふれた美しい絵を添えて語られます。
いまや日本の子どもたちにとってもクリスマスは特別な日。「大切な人に真心を贈る」。ほんとうの贈りものとはなにかを本書を読んで分かち合えば、より素敵なクリスマスになるでしょう。
各々の巻末では、「死者の日」、「オオカバマダラ」、「メキシコのクリスマス」、「ポインセチア」の説明がされています。いずれの作者もメキシコを何度も訪れてこうした季節を過ごしており、生きた体験に基づく内容となっています。
(棚橋加奈江 たなはしかなえ)