「日本でこどもたちが「おやすみなさい」をいうころに、コスタリカでは、鳥たちが目をさまします。」という文章で、「ツーティのちいさなぼうけん」は始まります。この絵本の舞台は、中米の国コスタリカのジャングルです。
軍隊を持たない国として知られているコスタリカは、国土の38%を占めるジャングルに、なんと世界の生物種の5%が生息するという多様性に富んだ自然を有し、環境保護にも力を入れています。
ハナグマのツーティは、みんなとイチジクを食べにいったとき、ふと見つけたアリの行列に気をとられているうちにお母さんとはぐれてしまいます。お母さんを探してジャングルを歩きまわり、最後には再会するというお話です。
そびえる巨木、うっそうと茂る植物の間に咲く色鮮やかな花、さまざまな生き物など、熱帯のジャングルのようすが緻密な絵で生き生きと描かれています。巻末には4ページにわたって、ジャングルに住む生き物50種が紹介してあり、幼い読者が物語を楽しみながら、ジャングルに親しめる物語絵本です。
絵を担当した松岡達英さんは、自然をテーマに数多くの絵本を描いている絵本作家。コスタリカのジャングルで3年にわたる取材を重ね、それを絵本「ジャングル」にまとめ、高く評価されました。
冒頭には、国土全体の地形のわかる絵地図があり、「コスタリカの人たちは、30をこえる国立公園や自然保護区をつくって、この変化にとんだ豊かな自然をたいせつにまもっています」と、説明しています。
最初に訪れるのは、首都のサンホセの西にあるモンテベルデ自然保護区。1年じゅう霧や雲におおわれた雲霧林で、30種類もの植物に覆われた木や、親指ほどしかないハチドリ、アステカ帝国の王の冠にその羽が使われた色鮮やかなケツァールなどが観察されます。
次は、カリブ海に面したトルトゲーロ国立公園です。魚、昆虫、植物の実や種、動物など、興味深い部分が自由にクローズアップされ、ジャングルの景観が克明にわかります。動物や自然好きの子どもは夢中になりそうです。見返しに旅行中のスケッチやメモもあり。エコツーリズムや環境問題に目を向けるきっかけにもなるでしょう。
(宇野和美 うのかずみ)