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【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.5 コスタリカのジャングルに分け入る

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ツーティのちいさなぼうけん 越智典子 文 松岡達英 絵  偕成社 1999年7月発行 本の詳しい紹介は こちら ジャングル 松岡達英 著 岩崎書店 1993年10月発行 本の詳しい紹介は こちら 「日本でこどもたちが「おやすみなさい」をいうころに、コスタリカでは、鳥たちが目をさまします。」という文章で、「ツーティのちいさなぼうけん」は始まります。この絵本の舞台は、中米の国コスタリカのジャングルです。 軍隊を持たない国として知られているコスタリカは、国土の38%を占めるジャングルに、なんと世界の生物種の5%が生息するという多様性に富んだ自然を有し、環境保護にも力を入れています。 ハナグマのツーティは、みんなとイチジクを食べにいったとき、ふと見つけたアリの行列に気をとられているうちにお母さんとはぐれてしまいます。お母さんを探してジャングルを歩きまわり、最後には再会するというお話です。 そびえる巨木、うっそうと茂る植物の間に咲く色鮮やかな花、さまざまな生き物など、熱帯のジャングルのようすが緻密な絵で生き生きと描かれています。巻末には4ページにわたって、ジャングルに住む生き物50種が紹介してあり、幼い読者が物語を楽しみながら、ジャングルに親しめる物語絵本です。 絵を担当した松岡達英さんは、自然をテーマに数多くの絵本を描いている絵本作家。コスタリカのジャングルで3年にわたる取材を重ね、それを絵本「ジャングル」にまとめ、高く評価されました。 冒頭には、国土全体の地形のわかる絵地図があり、「コスタリカの人たちは、30をこえる国立公園や自然保護区をつくって、この変化にとんだ豊かな自然をたいせつにまもっています」と、説明しています。 最初に訪れるのは、首都のサンホセの西にあるモンテベルデ自然保護区。1年じゅう霧や雲におおわれた雲霧林で、30種類もの植物に覆われた木や、親指ほどしかないハチドリ、アステカ帝国の王の冠にその羽が使われた色鮮やかなケツァールなどが観察されます。 次は、カリブ海に面したトルトゲーロ国立公園です。魚、昆虫、植物の実や種、動物など、興味深い部分が自由にクローズアップされ、ジャングルの景観が克明にわかります。動物や自然好きの子どもは夢中になりそうです。見返しに旅行中のスケッチやメモもあり。エコツーリズムや環境問題に目を向けるきっかけにもなるでしょう。 (宇野和美 ...

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.4 きかんしゃキト号

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きかんしゃキト号 ルドウィッヒ・ベーメルマンス 作 ふしみみさを訳 BL出版 2015年8月発行 「もし地球がこのレモンだとすると、まん中にまいてあるヒモが赤道です・・・そして、ちょうどヒモのむすび目の下にあるのがエクアドル」と始まる最初のページには、 笑顔の太陽とレモンの絵。やさしいユーモアが読者を一気にこの赤道直下の暖かな国へと運んでくれます。 国土は ラテンアメリカでも特に狭く、日本の3 分の2ほど。南北にアンデス山脈が走り、西は太平洋、東はアマゾン低地と、地勢的生態的な多様性から “南米の宝石箱" とも呼ばれています。 ページをめくると、機関車と素朴な土の家。庭で真に広げたトウモロコシをニワトリに突つかれぬよう見張っている幼いペドロは、アンデスの谷間を駆け抜ける勇ましい機関車が大好きです。粘土で壺や皿を作るお父さん、それをロバに積んでオタバロの市場へ売りに行くお母さん、頭にオレンジを載せ、布で包んだペドロをおぶってついていくお姉さん。のびやかな文章とテラコッタ色でさっと描かれた挿絵が土地の暮らしを伝えます。 これは80年ほど前の1937年にエクアドルを旅した作者が見た風景です。オタバロの先住民は植民地期以前から織物を織20世紀半ばにはその民芸品が国外でも知られていました。20世紀初め難工事の未完成したアンデス越えの鉄道キト号で高度差3600mを駆け下り、文化的にも大きく異なる港町グアヤキルへ。作者はこのとき目にした豊かな自然と人々に魅了され、この絵本を作ったのです。 さて、お話のペドロはオタバロの駅でうっかり汽車に乗り込んでしまいます。首都キトへ運ばれ、親切な車掌さんに世話してもらいながらグアヤキルへ、グアヤキルからまたキトへ、そしてオタバロに戻るまで4日もの長い冒険をすることに・・・。 人々のユーモアあふれる掛け合いや、「まるでみどりのビンの底にいる」ようなジャングルを抜けて着いたグアヤキルは、カカオ豆の香りで「まち全体がおいしい朝ごはんのよう」といったわくわくさせる語りを通じて、人とその環境への感性を育ててくれる絵本であればこそ、時を超えて読まれているのでしょう。 エコツーリズムや先住民運動の新たな試みが続くエクアドルへの入口として、さまざまな年齢の読者にお勧めです。なお、鉄道は衰退した一時期を経て今また観光列車として活躍中です。 (網野 真...