CLIJALの活動から~ グアダラハラブックフェアと 公立図書館訪問
鋤柄史子
昨年11月30日から12月8日まで、メキシコのグアダラハラにて国際的なブックフェア(Feria Internacional del Libro de Guadalajara、以下FIL)が開催されました。私は4日間ここに足を運びました。今回はFILの様子とともに、街の図書館についてもお話しします。
身にしみるような寒さが続いていた東京を離れてグアダラハラへ向かい、朝を迎えた時、太陽の暖かさを身体いっぱいに感じました。時差ボケも気にならず、早速FILの会場へ。FILは、年に一度開かれるラテンアメリカ最大のブックフェアです。メキシコ国内のみならず他の中南米や欧米等の出版社が各々のブースに本を並べ、会場を埋め尽くします。開催期間中は一般に開かれた時間が設けられていて、その時間になると会場の人口密度がぐっと高くなります。国内外の著名な作家の講演会やサイン会、表彰式が行われる等、まさに本の祭典、ビジネスの場としてのみならず、老若男女問わず集う交流の場としても盛り上がっていました。イタリアの作家、アレッサンドロ・バリッコの講演会の質疑応答では、愛と死について人生相談する若者の姿もありました。会場には9日間で75万の人が訪れたそうです。滞在期間中、常に感じられたのは人々の熱気です。それは会場の中だけではありません。会場へ向かうバスは平日でも朝昼問わずいつも満員でした。また、宿の従
業員もバーで居合わせた男性もFILの事を口に出すと、自分の好きな本について熱く語り出しました。
滞在最終日、市街地にある図書館を訪れました。オクタビオ・パス中南米図書館と呼ばれるその図書館の奥に進むと、一画に子どものためのスペースが用意されていました。平日の昼間だったので子どもはいませんでしたが、児童室担当の司書の方に話を聞く機会を得ました。本は対象年齢ごとに分けて作家順に並べられ、選書は日本の公立図書館とだいたい同じ方法をとっているようでした。ただ、ここでは貸出しが行われていないということでした。これは子どもに限らず、大人の利用者にとっても同様でした。この図書館が大学付属であることがその一つの要因でしょう。ただ、街の中心にありながら、図書の貸出しが権利として認められていないことに市民は不便さを感じているはずです。理由を尋ねると、盗まれる可能性があるから、という返答でした。
児童室は休日になると、近所の親子連れから観光客、あるいは物売りの子どもたちなど様々な来客があるようです。6畳程のスペースに、あらゆる子どもたちがごった返すのです。休日の児童室にはFILで感じたのと同様の熱気がたちこめるのでしょう。図書館を出て宿へと帰る道すがら、その様子を想像して顔をほころばせると同時に、閉館時間を気にすることなく本を読みたい子らのために、何とか図書館の貸出しを実現してほしいと強く思いました。
Círculo do Livro Infanto-juvenil para a amizade entre Japão e América Latina
Círculo del Libro Infantil y Juvenil para la amistad entre Japón y América Latina
CLIJALは、子どもの本をつうじて、日本とラテンアメリカをつないでいこうとする会です。日本人や日本在住のラテンアメリカ出身者をはじめとする多くの人びとが、ラテンアメリカをめぐるさまざまな物語と出会う場、本をつうじて豊かな交流が生まれる場となることを願って活動しています。(旧CLILAJより2011年5月改称しました。)
2015年5月25日
2015年5月11日
【おすすめの本】★ブラジルの友だち/ Amigos do Brasil/ Amigos de Brasil
ブラジル / Brasil
佐藤郡衛監修 / Gunei Sato(Supervisor)
学校図書/ Gakko Tosho
2000
世界の友だちとくらし
くらし・文化/ vida e cultura / vida y cultura
ノンフィクション / não ficção / no ficción
小学校高学年から / a partir de 10 anos de idade / a partir de 10 años
ブラジルの概要に始まり、日本人学校とブラジル人学校の紹介、簡単なポルトガル語、家庭や町の様子、文化の紹介のほか、ブラジル人が多く住む日本の町も紹介されています。全体に写真が豊富で読みやすく、遊びの説明でブラジル式「せっせっせ」を数枚の写真で紹介したりするなど、きめ細かい配慮が行き届いた編集です。巻末には天然資源や政治経済の話、歴史、日本とブラジルの関係についてもまとめられていて充実した内容。最後のページ「日本とブラジルはたすけたり、たすけられたり」で、人と人との交流の大切さが強調されています。
Informações bem variadas sobre o Brasil: perfil do país, escolas brasileiras e escolas japonesas que há no Brasil, frases fáceis da língua portuguesa, os lares e as ruas, cultura, assim como as cidades no Japão onde moram muitos brasileiros. É um livro editado com minuciosas atenções e fácil de ler com as fotos abundantes. Por exemplo, mostrando com algumas fotos, nos explica que existem jogos infantis muito parecidos no Brasil e no Japão. No final do livro, se fala sobre recursos naturais, política, economia, história e relação entre Brasil e Japão. Na última página entitulada “Japão e Brasil, nos temos ajudado mutuamente”, se enfatiza a importância do intercâmbio entre as pessoas de ambos os países.
Se explica una gran variedad de informaciones sobre Brasil: perfil del país, escuelas japonesa y local, frases fáciles en portugués, ambiente en casas y calles, cultura, así como las ciudades japonesas donde residen muchos brasileños. Es un libro editado con minuciosas atenciones y fácil de leer con las fotografías abundantes. Por ejemplo, mostrando en unas imágenes, nos señala que hay juegos infantiles muy similares en Brasil y Japón. El resumen al final del libro, que se trata de recursos naturales, política, economía, historia y relación entre Japón y Brasil, nos ayuda a enriquecer el conocimiento. En la última página titulada “Japón y Brasil, nos hemos ayudado mutuamente”, se pone énfasis en la importancia del intercambio entre la gente de ambos países.
2015年5月1日
日本ラテンアメリカ協力ネットワーク『そんりさ』連載記事より(その8)
CLIJALの活動から~ シピティオ
網野真木子
今回は、エルサルバドルの人びとのあいだで語り継がれてきた愛すべき存在「シピティオ」をめぐるお話をしましょう。
シピティオEl Cipitíoという名は、ナワ系言語で子どもを意味するCipitからきており、そのとおり子どものような背丈です。シグアナバという女性が夫への裏切りを神に罰せられさまよう身となる伝説の中で、置き去りにされた息子シピティオも罰として永遠に成長をとめられたといいます。彼の特徴は小さな身体だけではありません。突き出たおなかにつばの広いとんがり帽子、そして正面から見ると後ろ向きに立っているように見える、つまり足が反対向きについているというのが大方の説です。面白いことに、ドミニカ共和国のシグアパやブラジルのクルピラなど、ラテンアメリカには、追いかけていく人を惑わせるような足跡をつける、同じ仲間がいます。シピティオは神出鬼没の超能力を備えているともいわれ、森に住み、川べりで遊ぶ子ら(とくに若い娘)をからかったり、夜になると台所に忍び込んで灰を食べたり、屋根に小石をぶつけて子どもを遊びに誘い出したり、何かと悪戯好きですが、邪気は少ないようです。先日、エルサルバドルから来日したカステジャノスさんが東京の子どもたちに昔話を語ってくれる機会がありましたが、そこに登場したのは、「マタテロ、テロ、テロ...」と呪文を唱えて悪い人を石に変えてしまうシピティオでした。
さて、いま私の手元にはシピティオを題材にした2冊の絵本があります。その1冊、エルサルバドルを代表する作家マンリオ・アルゲタの『El Cipitío』(2006)は、無邪気な姿のシピティオを森の豊かな動植物とともに描き出しています。シピティオのことを子ども向けに書き残そうと思い立ったのは、自らのアイデンティティを意識したときに自然と生まれたアイデアだった、と彼は語っています。
もう一冊は、エルサルバドルからアメリカに移り住んだ詩人・絵本作家であるホルヘ・アルゲタの『El Zipitio』(2003)です。この本のシピティオは少々趣がちがい、大人になろうとしている少女の前に現れて、愛をささやく存在です。少女ルフィーナは母親からまもなくシピティオが現れると聞かされて、不安でいっぱいになりますが、母親はシピティオを怖がってはいけないこと、彼が現れたらどうすればいいかをこっそり教えてくれます。一種の誘惑者と受けとれそうな性格もまた、語り継がれてきたシピティオの別の一面かと思われますが、作者は、そんなシピティオに対し少女がいかにふるまうかをテーマにしています。結末で、「海の波をとってきて」と頼まれたシピティオは、渡されたカゴを大喜びで受けとると、海へ向かって走り出し、二度と姿を現さないのですが、そこには作者独自のユーモアや若者への温かな眼差しが感じられます。
1990年代には現代の町を舞台にした実写版「シピティオの冒険」がつくられ、今もテレビで新シリーズを放映中とのことですが、シピティオをめぐるものがたりは今もたえず新たに紡ぎだされ、子どもたちとの楽しくひそかな交流は続いているようです。
Argueta, Manlio"El Cipitío", Editorial Legado, 2006
Argueta, Jorge; Calderón Gloria(ilus.)"El Zipitio", Groundwood Books, 2003
網野真木子
今回は、エルサルバドルの人びとのあいだで語り継がれてきた愛すべき存在「シピティオ」をめぐるお話をしましょう。
シピティオEl Cipitíoという名は、ナワ系言語で子どもを意味するCipitからきており、そのとおり子どものような背丈です。シグアナバという女性が夫への裏切りを神に罰せられさまよう身となる伝説の中で、置き去りにされた息子シピティオも罰として永遠に成長をとめられたといいます。彼の特徴は小さな身体だけではありません。突き出たおなかにつばの広いとんがり帽子、そして正面から見ると後ろ向きに立っているように見える、つまり足が反対向きについているというのが大方の説です。面白いことに、ドミニカ共和国のシグアパやブラジルのクルピラなど、ラテンアメリカには、追いかけていく人を惑わせるような足跡をつける、同じ仲間がいます。シピティオは神出鬼没の超能力を備えているともいわれ、森に住み、川べりで遊ぶ子ら(とくに若い娘)をからかったり、夜になると台所に忍び込んで灰を食べたり、屋根に小石をぶつけて子どもを遊びに誘い出したり、何かと悪戯好きですが、邪気は少ないようです。先日、エルサルバドルから来日したカステジャノスさんが東京の子どもたちに昔話を語ってくれる機会がありましたが、そこに登場したのは、「マタテロ、テロ、テロ...」と呪文を唱えて悪い人を石に変えてしまうシピティオでした。
さて、いま私の手元にはシピティオを題材にした2冊の絵本があります。その1冊、エルサルバドルを代表する作家マンリオ・アルゲタの『El Cipitío』(2006)は、無邪気な姿のシピティオを森の豊かな動植物とともに描き出しています。シピティオのことを子ども向けに書き残そうと思い立ったのは、自らのアイデンティティを意識したときに自然と生まれたアイデアだった、と彼は語っています。
もう一冊は、エルサルバドルからアメリカに移り住んだ詩人・絵本作家であるホルヘ・アルゲタの『El Zipitio』(2003)です。この本のシピティオは少々趣がちがい、大人になろうとしている少女の前に現れて、愛をささやく存在です。少女ルフィーナは母親からまもなくシピティオが現れると聞かされて、不安でいっぱいになりますが、母親はシピティオを怖がってはいけないこと、彼が現れたらどうすればいいかをこっそり教えてくれます。一種の誘惑者と受けとれそうな性格もまた、語り継がれてきたシピティオの別の一面かと思われますが、作者は、そんなシピティオに対し少女がいかにふるまうかをテーマにしています。結末で、「海の波をとってきて」と頼まれたシピティオは、渡されたカゴを大喜びで受けとると、海へ向かって走り出し、二度と姿を現さないのですが、そこには作者独自のユーモアや若者への温かな眼差しが感じられます。
1990年代には現代の町を舞台にした実写版「シピティオの冒険」がつくられ、今もテレビで新シリーズを放映中とのことですが、シピティオをめぐるものがたりは今もたえず新たに紡ぎだされ、子どもたちとの楽しくひそかな交流は続いているようです。
Argueta, Manlio"El Cipitío", Editorial Legado, 2006
Argueta, Jorge; Calderón Gloria(ilus.)"El Zipitio", Groundwood Books, 2003
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