2025年6月7日

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.4 きかんしゃキト号

きかんしゃキト号

ルドウィッヒ・ベーメルマンス 作
ふしみみさを訳
BL出版
2015年8月発行
(ISBN978-4-7764-0732-4)
1400円+税


「もし地球がこのレモンだとすると、まん中にまいてあるヒモが赤道です・・・そして、ちょうどヒモのむすび目の下にあるのがエクアドル」と始まる最初のページには、 笑顔の太陽とレモンの絵。やさしいユーモアが読者を一気にこの赤道直下の暖かな国へと運んでくれます。 国土は ラテンアメリカでも特に狭く、日本の3 分の2ほど。南北にアンデス山脈が走り、西は太平洋、東はアマゾン低地と、地勢的生態的な多様性から “南米の宝石箱" とも呼ばれています。
ページをめくると、機関車と素朴な土の家。庭で真に広げたトウモロコシをニワトリに突つかれぬよう見張っている幼いペドロは、アンデスの谷間を駆け抜ける勇ましい機関車が大好きです。粘土で壺や皿を作るお父さん、それをロバに積んでオタバロの市場へ売りに行くお母さん、頭にオレンジを載せ、布で包んだペドロをおぶってついていくお姉さん。のびやかな文章とテラコッタ色でさっと描かれた挿絵が土地の暮らしを伝えます。
これは80年ほど前の1937年にエクアドルを旅した作者が見た風景です。オタバロの先住民は植民地期以前から織物を織20世紀半ばにはその民芸品が国外でも知られていました。20世紀初め難工事の未完成したアンデス越えの鉄道キト号で高度差3600mを駆け下り、文化的にも大きく異なる港町グアヤキルへ。作者はこのとき目にした豊かな自然と人々に魅了され、この絵本を作ったのです。
さて、お話のペドロはオタバロの駅でうっかり汽車に乗り込んでしまいます。首都キトへ運ばれ、親切な車掌さんに世話してもらいながらグアヤキルへ、グアヤキルからまたキトへ、そしてオタバロに戻るまで4日もの長い冒険をすることに・・・。
人々のユーモアあふれる掛け合いや、「まるでみどりのビンの底にいる」ようなジャングルを抜けて着いたグアヤキルは、カカオ豆の香りで「まち全体がおいしい朝ごはんのよう」といったわくわくさせる語りを通じて、人とその環境への感性を育ててくれる絵本であればこそ、時を超えて読まれているのでしょう。
エコツーリズムや先住民運動の新たな試みが続くエクアドルへの入口として、さまざまな年齢の読者にお勧めです。なお、鉄道は衰退した一時期を経て今また観光列車として活躍中です。

(網野 真木子  あみのまきこ)