2025年5月28日

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.3 世界でいちばん貧しい大統領の国

世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ

くさばよしみ 編 中川孝給 汐文社 2014年3月発行
(ISBN9784811320670) 本体1600円+税 


「世界でいちばん貧しい大統領からきみへ」 
くさばよしみ 編 田口 実千代 絵 汐文社 2015年10月発行
(ISBN9784811322483) 本体1200円 +税

2012年にブラジルのリオデジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議 (リオ+20)」で、環境を守り、人間が豊かに生きていくために「見直さなくてはならないのは、わたしたち自身の生き方」だと訴えたのは、当時ウルグアイの大統領だったホセ・ムヒカさん。そのスピーチが世界的に話題となり、「世界でいち ばん貧しい大統領のスピーチ」という絵本になりました。
ウルグアイの正式名称は「ウルグアイ東方共和国」。南アメリカ大陸の大西洋岸、ブラジルとアルゼンチンの間に位置する国です。国土は日本の半分くらいですが90パーセントを農業に利用でき、食料、乳製品、肉の輸出国です。「1300万頭の世界最高の牛」と「800万から1000万頭のすばらしい羊」がいると、この絵本にも説明されています。ムヒカさん自身、大統領時代も公邸ではなく町から離れた農場に住み、鶏を飼い、花や野菜を作っていたというから驚きです。
では、そういった思想や生き方の原点はどこにあるのでしょうか。「世界でいちばん貧しい大統領からきみへ」には、ムヒカさんの生い立ちや大統領になるまでのことが詳しく解説されています。
スペイン移民の父親が7歳のときに亡くなり、イタリア移民の母親が野菜を作りながら育ててくれたこと、近所で園芸をしていた日本人移民から花の栽培を教わったというエピソードもあります。
ウルグアイは第2次世界大戦中、ヨーロッパに農産物や畜産物を売って豊かになりますが、戦後は欧米に経済を支配され不安定になります。そこで強権的な軍部が権力を握り、抵抗する人々は弾圧され、ムヒカさんもゲリラ活動をして13年間も投獄されました。その厳しい獄中生活で読書をし、人間とは何かを問い続けました。古代ギリシャの哲学から南米のアイマラ族の伝統まで、歴史も地理も超えた多くの叡智がムヒカさんの思想を裏付けているのは興味深いことです。
この戦後のウルグアイのような状況は、豊かな天然資源や農産物等を産するラテンアメリカ、アフリカ、アジアの多くの国で見られることではないかと、世界へ目を広げることができます。
どちらの本も小学校中学年くらいから読めます。詳しい背景が爽やかなイラストとともに解説された後者は、コンパクトで中高校生にもおすすめです。

(宇野和美 うのかずみ)