【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.6 ドミニカ共和国のある歴史
「コロンブスがたどり着いたイスパニョーラ島。キューバの東側に位置するその島を西側のハイチ共和国と二分しているドミニカ共和国が今回の舞台です。「ひみつの足あと」は、ドミニカに伝わる不思議な生き物、シグアパの物語です。
スペイン人がやってきたとき、山の洞窟に逃げ込んで生き延びた先住民タイノ族が起源との説もあるというシグアパは、たぐいまれな美しさと、ある「特徴」をのぞけば、人間そっくりの姿でした。しかし、彼らは人間のことをとてもおそれていたので、海の中の洞窟に住み、夜の間だけ陸に上がって食べ物を集めていました。シグアパたちを守っていたのが、彼らの「特徴」です。なんと、シグアパの足は後ろ向きについていて、足跡が進行方向と逆向きになるので、居場所を突き止められないというわけです。
子どもの頃、こんなシグアパを「なんてかしこいのだろう」と思っていたという作者は、1950年にアメリカで生まれ、生後すぐに両親の故郷であるドミニカ共和国にわたります。しかし、1960年、10歳の時にアメリカに移住しました。作者の父が、30年以上独裁を敷いていたトルヒーヨ政権への抵抗運動に参加していたため、迫害の危機から脱出したのだそうです。作者はもうすぐ12歳になる少女アニータを主人公として、独裁末期、ドミニカ共和国の国内でなにがあったのかを物語にしました。それが「わたしたちが自由になるまえ」です。
たっぷりとした敷地の屋敷に、大家族で暮らしていたアニータでしたが、大好きな叔父がいなくなり、祖父母や従姉の家族は慌ただしくアメリカへ旅立ち、不安は募る一方ですが、大人は説明してくれません。しかし、秋密察が踏み込んでくるほど事態が切迫し、アニータは無垢な子どもではいられなくなります。
多くの中高生は、反政府組織の抵抗運動とそれに対する残忍な弾圧をこの本だけで理解するのは難しいかもしれません。しかし緊迫感に満ちた展開に引かれて読み進めれば、クローゼットに身を隠しながら日記を書くことで自分を保っていたアニータを通して、自由を求める尊さが心に響くのではないでしょうか。
「ひみつの足あと」は鮮やかで豊かな色使いでカリブの風を感じさせてくれます。その不思議な物語が含む共生への願いは、年齢を超えて伝わることでしょう。
(西山利佳 にしやまりか)