【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.11 ブラジルで読み継がれるゆかいなお話

いたずら妖怪サッシ 密林の大冒険

モンテイロ・ロバート作
小坂允雄 訳
松田シヅコ 絵
子どもの未来社
2013年10月発行

 日本の23倍の面積を持ち、熱帯から温帯にまで広がるブラジルにはその土地ならではの民話や昔話が数多く伝わっていますが、その中の主だった登場人物が勢ぞろいするのが、この本です。

 サッシは赤い三角帽子をかぶり、口にはキセルをくわえ、一本足でぴょんぴょん歩いて悪さやいたずらをする黒い小人の姿に描かれます。ブラジルでは何か失敗したり、しょげ返っている人がいたら、「それはサッシ(サシー)の仕業だね」なんて言うのだとか。それだけ親しまれている存在で、この本には狼男や水の精、クルビーラなどの不思議な妖怪も出てきます。

 主人公はペドリーニョという都会に住む男の子。学校が休みになると祖母やいとこ従妹のナリジーニョが住む田舎の「黄色いキツツキ農園」で過ごすのを楽しみにしています。

 ペンタおばあちゃんは博識で研究心旺盛。内外のさまざまな物語や知識を孫たちにわかりやすい言葉で語ってくれます。お料理担当のナスタシアおばさんはブラジルの民話や昔話に詳しく、子どもたちの空想の羽を拡げてくれます。他にもナリジーニョの人形で話ができるようになったエミリア、トウモロコシの芯でできたサブゴーザ子爵などが登場し、ファンタジーの世界ながら、子どもたちに必要な知識(ブラジルの地理、歴史、天文、地学など)も教える教材的な要素を持っている児童文学の古典です。

 作者のモンテイロ・ロバート(1882-1948)は作家、編集者、ジャーナリストとして政治、経済、文化など幅広い執筆活動で知られ、特にブラジル児童文学の創始者として有名です。なかでも1920年以降に発表された「黄色いキツツキ農園」シリーズは読み物、教材として全国の学校に置かれ、映画やテレビドラマにもなって、その登場人物を知らないブラジル人はまずいないほど。23冊あるこのシリーズの中で邦訳があるのは、残念ながらこの「サッシ」のみです。

 注目すべきなのは、ペドリーニョもナリジーニョも聞いた話を鵜呑みにすることなく、質問したり、議論したり、自分たちで調査することです。文化や伝統、教訓を子どもたちに伝えるだけではなく、それを彼らが批判的に受容するように、と考えていたようです。

(こだかとねこ 小高 利根子)

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