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【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.12(最終回) 子どもに本の架け橋を

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むこう岸には モマルタ・カラスコ 作 宇野 和美 訳 ほるぷ出版 2009年5月発行 本の詳しい紹介は こちら  ラテンアメリカには20世紀後半、独裁政治や内戦に苦しんだ国が多数あります。南アメリカの南西にあるチリもその1つで、選挙で選ばれた社会主義のアジフェンデ政権に対して、1973年9月11日ピノチェトの率いる軍部がクーデターを起こし、1989年に民政移管するまで軍事独裁が続きました。その間、反政府勢力は厳しく取り締まられたので、大勢が国外に亡命しました。  チリの絵本「むこう岸には」の主人公、川の岸辺に住む女の子は「むこう岸の人たちは自分たちとは違うから、見てはい「けない」と両親から言われています。けれども、ある時、むこう岸の男の子と友だちになり、男の子の家族と会った女の子は「わたしたちはちがっている。だけど、とってもよくにている」ということに気づき、いつかその川に橋を架けようと願うのです。  チリの具体的状況は描かれていませんが、共生への強い思いの根底に、独裁や分断の歴史が感じられる絵本です。  「絵本で知ろう!ラテンアメリカの国」は、今号が最終回です。執筆を担当した「日本ラテンアメリカ子どもと本の会(略称CLIJAL)」について、最後に紹介させてください。  1990年の入管法改正以降、中南米から日系人が多数日本にやってきましたが、その子どもたちは学習でも親子のコミュニケーションでも困難をかかえがちだと聞きます。そこで、本を通して何か支援できないかと結成したのがCLIJALです。  実施してきた活動には、ラテンアメリカに関する本の紹介があります。2018年6月現在、27万人の中南米国籍の在留外国人がいますが、日頃報じられるラテンかたよアメリカは特定の話題に偏りがちです。  そこで私たちは子どもの本に着目し、ラテンアメリカの多様な文化や暮らし、考えを伝える児童書を読みあって選び、下記のブログで紹介してきました。  さらに、日本ポルトガル・スペイン3か国語の解説カードを添えた、お勧め本の展示セットを用意し、愛知県豊川市の小学校横浜市鶴見区などで図書展を開催してきました。この展示セットは貸し出しもしています。興味のある方はお問い合わせください。  1年間の連載を通して紹介してきた本が異なる文化をつなぐ橋となって、多様な文化を知るため、共生のために少しでも役立った...

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.11 ブラジルで読み継がれるゆかいなお話

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いたずら妖怪サッシ 密林の大冒険 モンテイロ・ロバート作 小坂允雄 訳 松田シヅコ 絵 子どもの未来社 2013年10月 発行  日本の23倍の面積を持ち、熱帯から温帯にまで広がるブラジルにはその土地ならではの民話や昔話が数多く伝わっていますが、その中の主だった登場人物が勢ぞろいするのが、この本です。  サッシは赤い三角帽子をかぶり、口にはキセルをくわえ、一本足でぴょんぴょん歩いて悪さやいたずらをする黒い小人の姿に描かれます。ブラジルでは何か失敗したり、しょげ返っている人がいたら、「それはサッシ(サシー)の仕業だね」なんて言うのだとか。それだけ親しまれている存在で、この本には狼男や水の精、クルビーラなどの不思議な妖怪も出てきます。  主人公はペドリーニョという都会に住む男の子。学校が休みになると祖母やいとこ従妹のナリジーニョが住む田舎の「黄色いキツツキ農園」で過ごすのを楽しみにしています。  ペンタおばあちゃんは博識で研究心旺盛。内外のさまざまな物語や知識を孫たちにわかりやすい言葉で語ってくれます。お料理担当のナスタシアおばさんはブラジルの民話や昔話に詳しく、子どもたちの空想の羽を拡げてくれます。他にもナリジーニョの人形で話ができるようになったエミリア、トウモロコシの芯でできたサブゴーザ子爵などが登場し、ファンタジーの世界ながら、子どもたちに必要な知識(ブラジルの地理、歴史、天文、地学など)も教える教材的な要素を持っている児童文学の古典です。  作者のモンテイロ・ロバート(1882-1948)は作家、編集者、ジャーナリストとして政治、経済、文化など幅広い執筆活動で知られ、特にブラジル児童文学の創始者として有名です。なかでも1920年以降に発表された「黄色いキツツキ農園」シリーズは読み物、教材として全国の学校に置かれ、映画やテレビドラマにもなって、その登場人物を知らないブラジル人はまずいないほど。23冊あるこのシリーズの中で邦訳があるのは、残念ながらこの「サッシ」のみです。  注目すべきなのは、ペドリーニョもナリジーニョも聞いた話を鵜呑みにすることなく、質問したり、議論したり、自分たちで調査することです。文化や伝統、教訓を子どもたちに伝えるだけではなく、それを彼らが批判的に受容するように、と考えていたようです。 (こだかとねこ 小高 利根子)