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【おすすめの本】きかんしゃキト号 / Trem Expresso Quito / Tren Expreso Quito

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エクアドル / Ecuador ルドウィッヒ・ベーメルマンス 作 ・ 絵 / ふしみみさを 訳 / BL 出版 、2006 年 Autor e ilustrador : Ludwig Bemelmans / Tradutor : Misao Fushimi / BL Shuppan, 2006 Autor e ilustrador: Ludwig Bemelmans / Traductor: Misao Fushimi / BL Shuppan, 2006 くらし・ 文化 / vida e cultura / vida y cultura 絵本 / livro ilustrado /álbum ilustrado 幼児 から / a partir de 4 anos de idade / a partir de 4 años 大きなぼうしにポンチョすがたの男の子ペドロは、アンデス山脈のふもとを走る特急「キト号」を見るのが大すき。ある日、おねえさんが駅でオレンジを売っているあいだに、ペドロはひとり、キト号にのりこんでしまい……。「ダダダダダ!」しかしゃべれない小さなペドロが、親切な車掌さんにたすけられ、アンデスの山中からジャングルを抜け、海辺の町までいってもどってくる4日間の大ぼうけん。土色のぬくもりのある絵で、アンデスの自然や、人びとのくらしをかいた絵本作家。1937年の楽しい旅の思い出がもとになったエクアドルのお話です 。 Um menino chamado Pedro, que usa quase sempre um chapéu grande e um poncho no ombro, gosta muito de olhar um trem expresso “Quito”, que corre no sopé da Cordilheira dos Andes. Um dia, enquanto a irmã dele estava vendendo laranjas em uma estação, ele entrou no trem e o trem partiu ...   Pedro é tão pequeno que ainda não sabe falar, mas com a ajuda do condutor do trem...

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.12(最終回) 子どもに本の架け橋を

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むこう岸には モマルタ・カラスコ 作 宇野 和美 訳 ほるぷ出版 2009年5月発行 本の詳しい紹介は こちら  ラテンアメリカには20世紀後半、独裁政治や内戦に苦しんだ国が多数あります。南アメリカの南西にあるチリもその1つで、選挙で選ばれた社会主義のアジフェンデ政権に対して、1973年9月11日ピノチェトの率いる軍部がクーデターを起こし、1989年に民政移管するまで軍事独裁が続きました。その間、反政府勢力は厳しく取り締まられたので、大勢が国外に亡命しました。  チリの絵本「むこう岸には」の主人公、川の岸辺に住む女の子は「むこう岸の人たちは自分たちとは違うから、見てはい「けない」と両親から言われています。けれども、ある時、むこう岸の男の子と友だちになり、男の子の家族と会った女の子は「わたしたちはちがっている。だけど、とってもよくにている」ということに気づき、いつかその川に橋を架けようと願うのです。  チリの具体的状況は描かれていませんが、共生への強い思いの根底に、独裁や分断の歴史が感じられる絵本です。  「絵本で知ろう!ラテンアメリカの国」は、今号が最終回です。執筆を担当した「日本ラテンアメリカ子どもと本の会(略称CLIJAL)」について、最後に紹介させてください。  1990年の入管法改正以降、中南米から日系人が多数日本にやってきましたが、その子どもたちは学習でも親子のコミュニケーションでも困難をかかえがちだと聞きます。そこで、本を通して何か支援できないかと結成したのがCLIJALです。  実施してきた活動には、ラテンアメリカに関する本の紹介があります。2018年6月現在、27万人の中南米国籍の在留外国人がいますが、日頃報じられるラテンかたよアメリカは特定の話題に偏りがちです。  そこで私たちは子どもの本に着目し、ラテンアメリカの多様な文化や暮らし、考えを伝える児童書を読みあって選び、下記のブログで紹介してきました。  さらに、日本ポルトガル・スペイン3か国語の解説カードを添えた、お勧め本の展示セットを用意し、愛知県豊川市の小学校横浜市鶴見区などで図書展を開催してきました。この展示セットは貸し出しもしています。興味のある方はお問い合わせください。  1年間の連載を通して紹介してきた本が異なる文化をつなぐ橋となって、多様な文化を知るため、共生のために少しでも役立った...

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.11 ブラジルで読み継がれるゆかいなお話

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いたずら妖怪サッシ 密林の大冒険 モンテイロ・ロバート作 小坂允雄 訳 松田シヅコ 絵 子どもの未来社 2013年10月 発行  日本の23倍の面積を持ち、熱帯から温帯にまで広がるブラジルにはその土地ならではの民話や昔話が数多く伝わっていますが、その中の主だった登場人物が勢ぞろいするのが、この本です。  サッシは赤い三角帽子をかぶり、口にはキセルをくわえ、一本足でぴょんぴょん歩いて悪さやいたずらをする黒い小人の姿に描かれます。ブラジルでは何か失敗したり、しょげ返っている人がいたら、「それはサッシ(サシー)の仕業だね」なんて言うのだとか。それだけ親しまれている存在で、この本には狼男や水の精、クルビーラなどの不思議な妖怪も出てきます。  主人公はペドリーニョという都会に住む男の子。学校が休みになると祖母やいとこ従妹のナリジーニョが住む田舎の「黄色いキツツキ農園」で過ごすのを楽しみにしています。  ペンタおばあちゃんは博識で研究心旺盛。内外のさまざまな物語や知識を孫たちにわかりやすい言葉で語ってくれます。お料理担当のナスタシアおばさんはブラジルの民話や昔話に詳しく、子どもたちの空想の羽を拡げてくれます。他にもナリジーニョの人形で話ができるようになったエミリア、トウモロコシの芯でできたサブゴーザ子爵などが登場し、ファンタジーの世界ながら、子どもたちに必要な知識(ブラジルの地理、歴史、天文、地学など)も教える教材的な要素を持っている児童文学の古典です。  作者のモンテイロ・ロバート(1882-1948)は作家、編集者、ジャーナリストとして政治、経済、文化など幅広い執筆活動で知られ、特にブラジル児童文学の創始者として有名です。なかでも1920年以降に発表された「黄色いキツツキ農園」シリーズは読み物、教材として全国の学校に置かれ、映画やテレビドラマにもなって、その登場人物を知らないブラジル人はまずいないほど。23冊あるこのシリーズの中で邦訳があるのは、残念ながらこの「サッシ」のみです。  注目すべきなのは、ペドリーニョもナリジーニョも聞いた話を鵜呑みにすることなく、質問したり、議論したり、自分たちで調査することです。文化や伝統、教訓を子どもたちに伝えるだけではなく、それを彼らが批判的に受容するように、と考えていたようです。 (こだかとねこ 小高 利根子)

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.10 旅で知るアルゼンチン、チリ

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  チャールズ・ダーウィン、世界をめぐる ジェニファー・サームズ作 まつむらゆりこ訳 廣済堂あかつき 2017年9月発行 アンデスの少女ミア 希望や夢のスケッチブック マイケル・フォアマン:作 長田弘:訳 BL出版 2009年3月発行 本の詳しい紹介は こちら  ダーウィンといえば、「種の起源」を発表し、自然科学の世界のみならず、思想的にも後世に大きな影響を与えた科学者として知られています。  その思索の元になったのが、22歳の時に乗り込んだ、イギリス海軍の調査船ビーグル号での5年間の航海でした。この旅は、ガラパゴス諸島でダーウィンがフくちばしィンチという小鳥の嘴の形などからさまざまな発見をしたことが有名ですが、航海の大半は南アメリカ大陸の測量に費やされていました。「チャールズ・ダーウィン、世界をめぐる」は、その様子を絵地図とイラストで描き出した絵本です。  船酔いに苦しみながら、サルバドル、リオデジャネイロ、モンテビデオ、ブエノスアイレスと、各地の港から上陸して南アメリカ大陸を探索したダーウィンは、イギリスとはまったく違う風土にワクワクしていました。熱帯雨林で珍しい蝶や甲虫、トカゲなどを集め、その剥製をイギリスに送り、アルゼンチンではパンパと呼ばれる乾いた草原を、現地の人たちと一緒に馬に乗って駆けめぐりました。海辺でメガテリウムという何万年も前に生きていた巨大ナマケモノの仲間の化石も掘り出しています。  大陸南端のホーン岬を回るときは、氷河や雪を抱いた山を見て、その美しさに感嘆したことを日誌に書いています。多様な地形、豊かな自然や生き物の姿を観察したり、火山の噴火や地震に遭ったりすることで、ダーウィンは地球の大きさとはるかな時代から続く命の営みを体感し、考えを深めていったのです。  ダーウィンが貝の化石を見つけて喜んだアンデス山脈は、チリを南北に走っています。「アンデスの少女ミア」は、その山々を仰ぐ麓の土地にくらす人々を描いています。ゴミの山から使えそうなものを探し出し、街で売って生活しているミアの家族。ある日、父親が街から連れてきた子犬の世話をするミアが、迷子になってしまいました。子犬を探して山を登っていき、高地で見つけたのが、見たこともない美しい白い花。その花を育てて、街で売り始めたミアたちの暮らしは、少しづつ変わっていきます...。  作者は現代の暮...

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.9 コロンビアの子どもたちの今を描く

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  ろばのとしょかん コロンビアでほんとうにあったおはなし ジャネット・ウィンター:文・絵 福本友美子訳 集英社 2011年3月発行 本の詳しい紹介は こちら エロイーサと虫たち ハイロ・ブイドラゴ作 ラファエル・ジョクテング:絵 宇野和美:訳 さ・え・ら書房 2011年9月発行 本の詳しい紹介は こちら  南アメリカ大陸の北端にあるコロンビア共和国は、カリブ海と太平洋に面し、標高差の大きな地形を生かしたコーヒーの産地として知られています。内戦が続いていましたが、2017年8月に終結宣言が出され、これからの復興が期待されています。 『ろばのとしょかん』は、実際にあった、ロバの移動図書館の物語です。ジャングルの奥に住む本好きなルイスさんが2頭のロバに本を積み、遠く山を越え、国じゅうの小さな村に届けます。途中、追いはぎに襲われるなど苦労もありますが、本を楽しみに待つ子どもの所に運び続けました。でも、なぜロバで本を届ける必要があるのでしょうか? コロンビアでは、1年間の就学前教育と9年間の初等教育が義務かつ無償と憲法で定められていますが、実際に通学できるかどうかは地域により格差があります。農村部では学校まで険しい山道を片道1時間以上歩かなければならず危険な目に遭う可能性があることや、村には5年生までの課程しかなく、経済的事情で都市の学校に進学するのを断念してしまうケースが問題となっています。 主人公ルイスさんも、そのような村には「家に本が1さつもないのがふつう」だったので、子どもや大人にも本を読んでもらいたいと思ってこの活動を始めたと言います。 都市部であっても、設備環境の整った私立校に通う裕福な子どもがいる一方で、公立校の不足、貧困層や国内避難民に対して十分なケアができないという問題が生じています。では、国内避難民とはどのような人たちのことでしょうか。 次にご紹介する「エロイーサと虫たち」は、まさに故郷を離れて父親と二人、見知らぬ町に引っ越してきた少女が主人公。学校では言葉が通じず、心細くて、変な虫の世界に迷い込んだような気分。でも、次第に新しい土地での暮らしに慣れ、成長し自分と同じ境遇の子どもたちを支える人となります。コロンビアで内戦の影響を受け、国内避難民となった子どもの気持ちに寄り添った作品です。 半世紀にわたる内戦では25万人以上が亡くなり、何百万人もの...

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.8 移民へのあたたかい手

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トマスと図書館のおねえさん パット・モーラ:文 ラウル・コローン:絵 藤原宏之:訳 さえら書房 2010年2月発行 本の詳しい紹介は こちら この道のむこうに フランシスコ・ヒメネス:著 千葉茂樹:訳 小峰書店 2003年11月発行 本の詳しい紹介は こちら  ラテンアメリカの国々にとって、アメリカは自由と繁栄の国。多くの人が季節労働者や移民として移動していきます。  その姿を描いた絵本として「トマスと図書館のおねえさん」を紹介します。  トマス少年は、テキサス生まれ。メキシコからの移民労働者の両親とともに、毎年夏には、野菜や果物の収穫期に合わせて農家を手伝うために、家族で合衆国国内を移動します。学校に通えないトマスは、ある町で初めて図書館を訪れ、親切な図書館員と出会い、勧められるまま本を開き、スペイン語を交えて親交を深め、読書に夢中になります。英語がわからない家族に、読み聞かせをすることも。ですが、夏の終わりには、再びテキサスへ。この絵本のモデルの少年は、本との出合いが未来を開き、後に作家となり、大学の学長も務めました。  トマスの両親のように、収穫期に合わせ北米南西部を家族で転々と移住するメキシコからの季節労働者の生活は、ミグラント・サーキットと呼ばれています。自身もその働き手として少年期を過ごしたヒメネス(主人公パンチート)は、「この道のむこうに」のなかで、その過酷な日常を綴りました。念願の小学校に通い始めても、放課後は農作業の手伝いへ。貧困と劣悪な環境下で、「移民局」の摘発に怯えつつ、熱心に英語を学び続けますが、毎夏の移動のために思うようには進みません。そんなある日、突然、移民局員に捕まり、強制退去となります。  続編「あの空の下」では、再び合衆国で、一家にようやく落ち着いた生活が訪れます。働きながら学び続け、主人公が学校に自分の居場所を見出していく過程は、中高生の共感を呼ぶでしょう。言葉の壁を克服し、未来を掴もうとする「移「民二世」の息子を理解し、励まし続ける両親と、彼の向学心に応え、導いてきた先生たちの姿が印象的です。初心を貫き教師となった彼は、遂に、自らサーキットを抜け出す未来を得ます。  外国につながる子どもにとって、ことばの習得などの学びの場は、不安を取りのぞき新しい社会への扉を開く鍵です。  合衆国には、今も移民が大勢押し寄せていますが、政策によ...

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.7 絵本で知るメキシコの宗教文化

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おばあちゃんのちょうちょ バーバラ M ヨース: 文 ジゼル・ポター: 絵  ふくもとゆきこ: 訳  BL出版 2006年10月発行 本の詳しい紹介は こちら ポインセチアはまほうの花 メキシコのクリスマスのおはなし ジョアンヌ・オッペンハイム: 文 ファビアン・ネグリン: 絵  宇野和美: 訳  光村教育図書 2010年9月発行  本の詳しい紹介は こちら  19世紀初めまでスペインの植民地だったメキシコは、他の中南米諸国と同様、国民の多くがカトリック教徒です。しかしマヤやアステカなどの高度な文明が栄えたこの地では、植民地化とともにもたらされたキリスト教を、独自のかたちでその文化に根付かせました。  「おばあちゃんのちょうちょ」はメキシコの重要な宗教行事の一つ、11月の「死者の日」を描いています。故人を偲ぶ行事であることから、よく日本のお盆にたとえられますが、一方ではにぎやかでフォトジェニックなお祭りとして紹介されがちです。ディズニー映画「リメンバー・ミー」でも取り上げられました。本書はそんな死者の日の本来の姿を、静かに厳かに描き出します。 「ちょうちょ」はメキシコで越冬することで有名なオオカバマダラのこと。チョウは洋の東西を問わず、古の昔から死者の魂との関わりを連想させる存在です。チョウたちが北へと飛び立つ春、大の仲良しだったおばあちゃんを亡くした少女。悲しみを拭い去れないまま次の死者の日を迎えた彼女のもとに、チョウがひらひらと舞い戻ってきます。一匹、二匹・・・、やがてお墓は金色の羽ばたきでいっぱいに。少女はようやく「たましいは、いつもわたしたちのそばにいるの」と教えてくれたおばあちゃんの言葉を理解します。  死者の日の後にはクリスマスがやってきます。クリスマスといえばポインセチア。スペイン語で「ノチェブエナ (クリスマス・イブ)」と呼ばれるこの花は、メキシコが原産です。クリスマスと結びついた理由には数々の言い伝えがあり、『ポインセチアはまほうの花」もその一つ。父親の失業で今年はイエス様や家族にクリスマスの贈りものができない、と気に病む心優しい少女にクリスマス・イブの夜に訪れた奇跡が、温かくメキシコらしさにあふれた美しい絵を添えて語られます。  いまや日本の子どもたちにとってもクリスマスは特別な日。「大切な人に真心...

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.6 ドミニカ共和国のある歴史

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ひみつの足あと フーリア・アルバレス:文  ファビアン・ネグリン: 絵 神戸万知: 訳 岩波書店 2011年8月発行 本の詳しい紹介は こちら わたしたちが自由になるまえ フーリアアルバレス: 著  神戸万知: 訳 ゴブリン書房 2016年12月発行  コロンブスがたどり着いたイスパニョーラ島。キューバの東側に位置するその島を西側のハイチ共和国と二分しているドミニカ共和国が今回の舞台です。「ひみつの足あと」は、ドミニカに伝わる不思議な生き物、シグアパの物語です。  スペイン人がやってきたとき、山の洞窟に逃げ込んで生き延びた先住民タイノ族が起源との説もあるというシグアパは、たぐいまれな美しさと、ある「特徴」をのぞけば、人間そっくりの姿でした。しかし、彼らは人間のことをとてもおそれていたので、海の中の洞窟に住み、夜の間だけ陸に上がって食べ物を集めていました。シグアパたちを守っていたのが、彼らの「特徴」です。なんと、シグアパの足は後ろ向きについていて、足跡が進行方向と逆向きになるので、居場所を突き止められないというわけです。  子どもの頃、こんなシグアパを「なんてかしこいのだろう」と思っていたという作者は、1950年にアメリカで生まれ、生後すぐに両親の故郷であるドミニカ共和国にわたります。しかし、1960年、10歳の時にアメリカに移住しました。作者の父が、30年以上独裁を敷いていたトルヒーヨ政権への抵抗運動に参加していたため、迫害の危機から脱出したのだそうです。作者はもうすぐ12歳になる少女アニータを主人公として、独裁末期、ドミニカ共和国の国内でなにがあったのかを物語にしました。それが「わたしたちが自由になるまえ」です。  たっぷりとした敷地の屋敷に、大家族で暮らしていたアニータでしたが、大好きな叔父がいなくなり、祖父母や従姉の家族は慌ただしくアメリカへ旅立ち、不安は募る一方ですが、大人は説明してくれません。しかし、秋密察が踏み込んでくるほど事態が切迫し、アニータは無垢な子どもではいられなくなります。  多くの中高生は、反政府組織の抵抗運動とそれに対する残忍な弾圧をこの本だけで理解するのは難しいかもしれません。しかし緊迫感に満ちた展開に引かれて読み進めれば、クローゼットに身を隠しながら日記を書くことで自分を保っていたアニータを通して、自由を求める尊さが心に響くので...

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.5 コスタリカのジャングルに分け入る

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ツーティのちいさなぼうけん 越智典子 文 松岡達英 絵  偕成社 1999年7月発行 本の詳しい紹介は こちら ジャングル 松岡達英 著 岩崎書店 1993年10月発行 本の詳しい紹介は こちら 「日本でこどもたちが「おやすみなさい」をいうころに、コスタリカでは、鳥たちが目をさまします。」という文章で、「ツーティのちいさなぼうけん」は始まります。この絵本の舞台は、中米の国コスタリカのジャングルです。 軍隊を持たない国として知られているコスタリカは、国土の38%を占めるジャングルに、なんと世界の生物種の5%が生息するという多様性に富んだ自然を有し、環境保護にも力を入れています。 ハナグマのツーティは、みんなとイチジクを食べにいったとき、ふと見つけたアリの行列に気をとられているうちにお母さんとはぐれてしまいます。お母さんを探してジャングルを歩きまわり、最後には再会するというお話です。 そびえる巨木、うっそうと茂る植物の間に咲く色鮮やかな花、さまざまな生き物など、熱帯のジャングルのようすが緻密な絵で生き生きと描かれています。巻末には4ページにわたって、ジャングルに住む生き物50種が紹介してあり、幼い読者が物語を楽しみながら、ジャングルに親しめる物語絵本です。 絵を担当した松岡達英さんは、自然をテーマに数多くの絵本を描いている絵本作家。コスタリカのジャングルで3年にわたる取材を重ね、それを絵本「ジャングル」にまとめ、高く評価されました。 冒頭には、国土全体の地形のわかる絵地図があり、「コスタリカの人たちは、30をこえる国立公園や自然保護区をつくって、この変化にとんだ豊かな自然をたいせつにまもっています」と、説明しています。 最初に訪れるのは、首都のサンホセの西にあるモンテベルデ自然保護区。1年じゅう霧や雲におおわれた雲霧林で、30種類もの植物に覆われた木や、親指ほどしかないハチドリ、アステカ帝国の王の冠にその羽が使われた色鮮やかなケツァールなどが観察されます。 次は、カリブ海に面したトルトゲーロ国立公園です。魚、昆虫、植物の実や種、動物など、興味深い部分が自由にクローズアップされ、ジャングルの景観が克明にわかります。動物や自然好きの子どもは夢中になりそうです。見返しに旅行中のスケッチやメモもあり。エコツーリズムや環境問題に目を向けるきっかけにもなるでしょう。 (宇野和美 ...

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.4 きかんしゃキト号

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きかんしゃキト号 ルドウィッヒ・ベーメルマンス 作 ふしみみさを訳 BL出版 2015年8月発行 本の詳しい紹介は こちら 「もし地球がこのレモンだとすると、まん中にまいてあるヒモが赤道です・・・そして、ちょうどヒモのむすび目の下にあるのがエクアドル」と始まる最初のページには、 笑顔の太陽とレモンの絵。やさしいユーモアが読者を一気にこの赤道直下の暖かな国へと運んでくれます。 国土は ラテンアメリカでも特に狭く、日本の3 分の2ほど。南北にアンデス山脈が走り、西は太平洋、東はアマゾン低地と、地勢的生態的な多様性から “南米の宝石箱" とも呼ばれています。 ページをめくると、機関車と素朴な土の家。庭で真に広げたトウモロコシをニワトリに突つかれぬよう見張っている幼いペドロは、アンデスの谷間を駆け抜ける勇ましい機関車が大好きです。粘土で壺や皿を作るお父さん、それをロバに積んでオタバロの市場へ売りに行くお母さん、頭にオレンジを載せ、布で包んだペドロをおぶってついていくお姉さん。のびやかな文章とテラコッタ色でさっと描かれた挿絵が土地の暮らしを伝えます。 これは80年ほど前の1937年にエクアドルを旅した作者が見た風景です。オタバロの先住民は植民地期以前から織物を織20世紀半ばにはその民芸品が国外でも知られていました。20世紀初め難工事の未完成したアンデス越えの鉄道キト号で高度差3600mを駆け下り、文化的にも大きく異なる港町グアヤキルへ。作者はこのとき目にした豊かな自然と人々に魅了され、この絵本を作ったのです。 さて、お話のペドロはオタバロの駅でうっかり汽車に乗り込んでしまいます。首都キトへ運ばれ、親切な車掌さんに世話してもらいながらグアヤキルへ、グアヤキルからまたキトへ、そしてオタバロに戻るまで4日もの長い冒険をすることに・・・。 人々のユーモアあふれる掛け合いや、「まるでみどりのビンの底にいる」ようなジャングルを抜けて着いたグアヤキルは、カカオ豆の香りで「まち全体がおいしい朝ごはんのよう」といったわくわくさせる語りを通じて、人とその環境への感性を育ててくれる絵本であればこそ、時を超えて読まれているのでしょう。 エコツーリズムや先住民運動の新たな試みが続くエクアドルへの入口として、さまざまな年齢の読者にお勧めです。なお、鉄道は衰退した一時期を経て今また観光列車とし...