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【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.9 コロンビアの子どもたちの今を描く

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  ろばのとしょかん コロンビアでほんとうにあったおはなし ジャネット・ウィンター:文・絵 福本友美子訳 集英社 2011年3月発行 本の詳しい紹介は こちら エロイーサと虫たち ハイロ・ブイドラゴ作 ラファエル・ジョクテング:絵 宇野和美:訳 さ・え・ら書房 2011年9月発行 本の詳しい紹介は こちら  南アメリカ大陸の北端にあるコロンビア共和国は、カリブ海と太平洋に面し、標高差の大きな地形を生かしたコーヒーの産地として知られています。内戦が続いていましたが、2017年8月に終結宣言が出され、これからの復興が期待されています。 『ろばのとしょかん』は、実際にあった、ロバの移動図書館の物語です。ジャングルの奥に住む本好きなルイスさんが2頭のロバに本を積み、遠く山を越え、国じゅうの小さな村に届けます。途中、追いはぎに襲われるなど苦労もありますが、本を楽しみに待つ子どもの所に運び続けました。でも、なぜロバで本を届ける必要があるのでしょうか? コロンビアでは、1年間の就学前教育と9年間の初等教育が義務かつ無償と憲法で定められていますが、実際に通学できるかどうかは地域により格差があります。農村部では学校まで険しい山道を片道1時間以上歩かなければならず危険な目に遭う可能性があることや、村には5年生までの課程しかなく、経済的事情で都市の学校に進学するのを断念してしまうケースが問題となっています。 主人公ルイスさんも、そのような村には「家に本が1さつもないのがふつう」だったので、子どもや大人にも本を読んでもらいたいと思ってこの活動を始めたと言います。 都市部であっても、設備環境の整った私立校に通う裕福な子どもがいる一方で、公立校の不足、貧困層や国内避難民に対して十分なケアができないという問題が生じています。では、国内避難民とはどのような人たちのことでしょうか。 次にご紹介する「エロイーサと虫たち」は、まさに故郷を離れて父親と二人、見知らぬ町に引っ越してきた少女が主人公。学校では言葉が通じず、心細くて、変な虫の世界に迷い込んだような気分。でも、次第に新しい土地での暮らしに慣れ、成長し自分と同じ境遇の子どもたちを支える人となります。コロンビアで内戦の影響を受け、国内避難民となった子どもの気持ちに寄り添った作品です。 半世紀にわたる内戦では25万人以上が亡くなり、何百万人もの...

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.8 移民へのあたたかい手

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トマスと図書館のおねえさん パット・モーラ:文 ラウル・コローン:絵 藤原宏之:訳 さえら書房 2010年2月発行 本の詳しい紹介は こちら この道のむこうに フランシスコ・ヒメネス:著 千葉茂樹:訳 小峰書店 2003年11月発行 本の詳しい紹介は こちら  ラテンアメリカの国々にとって、アメリカは自由と繁栄の国。多くの人が季節労働者や移民として移動していきます。  その姿を描いた絵本として「トマスと図書館のおねえさん」を紹介します。  トマス少年は、テキサス生まれ。メキシコからの移民労働者の両親とともに、毎年夏には、野菜や果物の収穫期に合わせて農家を手伝うために、家族で合衆国国内を移動します。学校に通えないトマスは、ある町で初めて図書館を訪れ、親切な図書館員と出会い、勧められるまま本を開き、スペイン語を交えて親交を深め、読書に夢中になります。英語がわからない家族に、読み聞かせをすることも。ですが、夏の終わりには、再びテキサスへ。この絵本のモデルの少年は、本との出合いが未来を開き、後に作家となり、大学の学長も務めました。  トマスの両親のように、収穫期に合わせ北米南西部を家族で転々と移住するメキシコからの季節労働者の生活は、ミグラント・サーキットと呼ばれています。自身もその働き手として少年期を過ごしたヒメネス(主人公パンチート)は、「この道のむこうに」のなかで、その過酷な日常を綴りました。念願の小学校に通い始めても、放課後は農作業の手伝いへ。貧困と劣悪な環境下で、「移民局」の摘発に怯えつつ、熱心に英語を学び続けますが、毎夏の移動のために思うようには進みません。そんなある日、突然、移民局員に捕まり、強制退去となります。  続編「あの空の下」では、再び合衆国で、一家にようやく落ち着いた生活が訪れます。働きながら学び続け、主人公が学校に自分の居場所を見出していく過程は、中高生の共感を呼ぶでしょう。言葉の壁を克服し、未来を掴もうとする「移「民二世」の息子を理解し、励まし続ける両親と、彼の向学心に応え、導いてきた先生たちの姿が印象的です。初心を貫き教師となった彼は、遂に、自らサーキットを抜け出す未来を得ます。  外国につながる子どもにとって、ことばの習得などの学びの場は、不安を取りのぞき新しい社会への扉を開く鍵です。  合衆国には、今も移民が大勢押し寄せていますが、政策によ...

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.7 絵本で知るメキシコの宗教文化

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おばあちゃんのちょうちょ バーバラ M ヨース: 文 ジゼル・ポター: 絵  ふくもとゆきこ: 訳  BL出版 2006年10月発行 本の詳しい紹介は こちら ポインセチアはまほうの花 メキシコのクリスマスのおはなし ジョアンヌ・オッペンハイム: 文 ファビアン・ネグリン: 絵  宇野和美: 訳  光村教育図書 2010年9月発行  本の詳しい紹介は こちら  19世紀初めまでスペインの植民地だったメキシコは、他の中南米諸国と同様、国民の多くがカトリック教徒です。しかしマヤやアステカなどの高度な文明が栄えたこの地では、植民地化とともにもたらされたキリスト教を、独自のかたちでその文化に根付かせました。  「おばあちゃんのちょうちょ」はメキシコの重要な宗教行事の一つ、11月の「死者の日」を描いています。故人を偲ぶ行事であることから、よく日本のお盆にたとえられますが、一方ではにぎやかでフォトジェニックなお祭りとして紹介されがちです。ディズニー映画「リメンバー・ミー」でも取り上げられました。本書はそんな死者の日の本来の姿を、静かに厳かに描き出します。 「ちょうちょ」はメキシコで越冬することで有名なオオカバマダラのこと。チョウは洋の東西を問わず、古の昔から死者の魂との関わりを連想させる存在です。チョウたちが北へと飛び立つ春、大の仲良しだったおばあちゃんを亡くした少女。悲しみを拭い去れないまま次の死者の日を迎えた彼女のもとに、チョウがひらひらと舞い戻ってきます。一匹、二匹・・・、やがてお墓は金色の羽ばたきでいっぱいに。少女はようやく「たましいは、いつもわたしたちのそばにいるの」と教えてくれたおばあちゃんの言葉を理解します。  死者の日の後にはクリスマスがやってきます。クリスマスといえばポインセチア。スペイン語で「ノチェブエナ (クリスマス・イブ)」と呼ばれるこの花は、メキシコが原産です。クリスマスと結びついた理由には数々の言い伝えがあり、『ポインセチアはまほうの花」もその一つ。父親の失業で今年はイエス様や家族にクリスマスの贈りものができない、と気に病む心優しい少女にクリスマス・イブの夜に訪れた奇跡が、温かくメキシコらしさにあふれた美しい絵を添えて語られます。  いまや日本の子どもたちにとってもクリスマスは特別な日。「大切な人に真心...

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.6 ドミニカ共和国のある歴史

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ひみつの足あと フーリア・アルバレス:文  ファビアン・ネグリン: 絵 神戸万知: 訳 岩波書店 2011年8月発行 本の詳しい紹介は こちら わたしたちが自由になるまえ フーリアアルバレス: 著  神戸万知: 訳 ゴブリン書房 2016年12月発行  コロンブスがたどり着いたイスパニョーラ島。キューバの東側に位置するその島を西側のハイチ共和国と二分しているドミニカ共和国が今回の舞台です。「ひみつの足あと」は、ドミニカに伝わる不思議な生き物、シグアパの物語です。  スペイン人がやってきたとき、山の洞窟に逃げ込んで生き延びた先住民タイノ族が起源との説もあるというシグアパは、たぐいまれな美しさと、ある「特徴」をのぞけば、人間そっくりの姿でした。しかし、彼らは人間のことをとてもおそれていたので、海の中の洞窟に住み、夜の間だけ陸に上がって食べ物を集めていました。シグアパたちを守っていたのが、彼らの「特徴」です。なんと、シグアパの足は後ろ向きについていて、足跡が進行方向と逆向きになるので、居場所を突き止められないというわけです。  子どもの頃、こんなシグアパを「なんてかしこいのだろう」と思っていたという作者は、1950年にアメリカで生まれ、生後すぐに両親の故郷であるドミニカ共和国にわたります。しかし、1960年、10歳の時にアメリカに移住しました。作者の父が、30年以上独裁を敷いていたトルヒーヨ政権への抵抗運動に参加していたため、迫害の危機から脱出したのだそうです。作者はもうすぐ12歳になる少女アニータを主人公として、独裁末期、ドミニカ共和国の国内でなにがあったのかを物語にしました。それが「わたしたちが自由になるまえ」です。  たっぷりとした敷地の屋敷に、大家族で暮らしていたアニータでしたが、大好きな叔父がいなくなり、祖父母や従姉の家族は慌ただしくアメリカへ旅立ち、不安は募る一方ですが、大人は説明してくれません。しかし、秋密察が踏み込んでくるほど事態が切迫し、アニータは無垢な子どもではいられなくなります。  多くの中高生は、反政府組織の抵抗運動とそれに対する残忍な弾圧をこの本だけで理解するのは難しいかもしれません。しかし緊迫感に満ちた展開に引かれて読み進めれば、クローゼットに身を隠しながら日記を書くことで自分を保っていたアニータを通して、自由を求める尊さが心に響くので...

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.5 コスタリカのジャングルに分け入る

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ツーティのちいさなぼうけん 越智典子 文 松岡達英 絵  偕成社 1999年7月発行 本の詳しい紹介は こちら ジャングル 松岡達英 著 岩崎書店 1993年10月発行 本の詳しい紹介は こちら 「日本でこどもたちが「おやすみなさい」をいうころに、コスタリカでは、鳥たちが目をさまします。」という文章で、「ツーティのちいさなぼうけん」は始まります。この絵本の舞台は、中米の国コスタリカのジャングルです。 軍隊を持たない国として知られているコスタリカは、国土の38%を占めるジャングルに、なんと世界の生物種の5%が生息するという多様性に富んだ自然を有し、環境保護にも力を入れています。 ハナグマのツーティは、みんなとイチジクを食べにいったとき、ふと見つけたアリの行列に気をとられているうちにお母さんとはぐれてしまいます。お母さんを探してジャングルを歩きまわり、最後には再会するというお話です。 そびえる巨木、うっそうと茂る植物の間に咲く色鮮やかな花、さまざまな生き物など、熱帯のジャングルのようすが緻密な絵で生き生きと描かれています。巻末には4ページにわたって、ジャングルに住む生き物50種が紹介してあり、幼い読者が物語を楽しみながら、ジャングルに親しめる物語絵本です。 絵を担当した松岡達英さんは、自然をテーマに数多くの絵本を描いている絵本作家。コスタリカのジャングルで3年にわたる取材を重ね、それを絵本「ジャングル」にまとめ、高く評価されました。 冒頭には、国土全体の地形のわかる絵地図があり、「コスタリカの人たちは、30をこえる国立公園や自然保護区をつくって、この変化にとんだ豊かな自然をたいせつにまもっています」と、説明しています。 最初に訪れるのは、首都のサンホセの西にあるモンテベルデ自然保護区。1年じゅう霧や雲におおわれた雲霧林で、30種類もの植物に覆われた木や、親指ほどしかないハチドリ、アステカ帝国の王の冠にその羽が使われた色鮮やかなケツァールなどが観察されます。 次は、カリブ海に面したトルトゲーロ国立公園です。魚、昆虫、植物の実や種、動物など、興味深い部分が自由にクローズアップされ、ジャングルの景観が克明にわかります。動物や自然好きの子どもは夢中になりそうです。見返しに旅行中のスケッチやメモもあり。エコツーリズムや環境問題に目を向けるきっかけにもなるでしょう。 (宇野和美 ...

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.4 きかんしゃキト号

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きかんしゃキト号 ルドウィッヒ・ベーメルマンス 作 ふしみみさを訳 BL出版 2015年8月発行 「もし地球がこのレモンだとすると、まん中にまいてあるヒモが赤道です・・・そして、ちょうどヒモのむすび目の下にあるのがエクアドル」と始まる最初のページには、 笑顔の太陽とレモンの絵。やさしいユーモアが読者を一気にこの赤道直下の暖かな国へと運んでくれます。 国土は ラテンアメリカでも特に狭く、日本の3 分の2ほど。南北にアンデス山脈が走り、西は太平洋、東はアマゾン低地と、地勢的生態的な多様性から “南米の宝石箱" とも呼ばれています。 ページをめくると、機関車と素朴な土の家。庭で真に広げたトウモロコシをニワトリに突つかれぬよう見張っている幼いペドロは、アンデスの谷間を駆け抜ける勇ましい機関車が大好きです。粘土で壺や皿を作るお父さん、それをロバに積んでオタバロの市場へ売りに行くお母さん、頭にオレンジを載せ、布で包んだペドロをおぶってついていくお姉さん。のびやかな文章とテラコッタ色でさっと描かれた挿絵が土地の暮らしを伝えます。 これは80年ほど前の1937年にエクアドルを旅した作者が見た風景です。オタバロの先住民は植民地期以前から織物を織20世紀半ばにはその民芸品が国外でも知られていました。20世紀初め難工事の未完成したアンデス越えの鉄道キト号で高度差3600mを駆け下り、文化的にも大きく異なる港町グアヤキルへ。作者はこのとき目にした豊かな自然と人々に魅了され、この絵本を作ったのです。 さて、お話のペドロはオタバロの駅でうっかり汽車に乗り込んでしまいます。首都キトへ運ばれ、親切な車掌さんに世話してもらいながらグアヤキルへ、グアヤキルからまたキトへ、そしてオタバロに戻るまで4日もの長い冒険をすることに・・・。 人々のユーモアあふれる掛け合いや、「まるでみどりのビンの底にいる」ようなジャングルを抜けて着いたグアヤキルは、カカオ豆の香りで「まち全体がおいしい朝ごはんのよう」といったわくわくさせる語りを通じて、人とその環境への感性を育ててくれる絵本であればこそ、時を超えて読まれているのでしょう。 エコツーリズムや先住民運動の新たな試みが続くエクアドルへの入口として、さまざまな年齢の読者にお勧めです。なお、鉄道は衰退した一時期を経て今また観光列車として活躍中です。 (網野 真...

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.3 世界でいちばん貧しい大統領の国

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世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ くさばよしみ 編  中川孝給  汐文社  2014年3月発行 「世界でいちばん貧しい大統領からきみへ」  くさばよしみ 編  田口 実千代 絵  汐文社  2015年10月発行 2012年にブラジルのリオデジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議 (リオ+20)」で、環境を守り、人間が豊かに生きていくために「見直さなくてはならないのは、わたしたち自身の生き方」だと訴えたのは、当時ウルグアイの大統領だったホセ・ムヒカさん。そのスピーチが世界的に話題となり、「世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ」という絵本になりました。 ウルグアイの正式名称は「ウルグアイ東方共和国」。南アメリカ大陸の大西洋岸、ブラジルとアルゼンチンの間に位置する国です。国土は日本の半分くらいですが90パーセントを農業に利用でき、食料、乳製品、肉の輸出国です。「1300万頭の世界最高の牛」と「800万から1000万頭のすばらしい羊」がいると、この絵本にも説明されています。ムヒカさん自身、大統領時代も公邸ではなく町から離れた農場に住み、鶏を飼い、花や野菜を作っていたというから驚きです。 では、そういった思想や生き方の原点はどこにあるのでしょうか。「世界でいちばん貧しい大統領からきみへ」には、ムヒカさんの生い立ちや大統領になるまでのことが詳しく解説されています。 スペイン移民の父親が7歳のときに亡くなり、イタリア移民の母親が野菜を作りながら育ててくれたこと、近所で園芸をしていた日本人移民から花の栽培を教わったというエピソードもあります。 ウルグアイは第2次世界大戦中、ヨーロッパに農産物や畜産物を売って豊かになりますが、戦後は欧米に経済を支配され不安定になります。そこで強権的な軍部が権力を握り、抵抗する人々は弾圧され、ムヒカさんもゲリラ活動をして13年間も投獄されました。その厳しい獄中生活で読書をし、人間とは何かを問い続けました。古代ギリシャの哲学から南米のアイマラ族の伝統まで、歴史も地理も超えた多くの叡智がムヒカさんの思想を裏付けているのは興味深いことです。 この戦後のウルグアイのような状況は、豊かな天然資源や農産物等を産するラテンアメリカ、アフリカ、アジアの多くの国で見られることではないかと、世...

JICA筑波の図書室でCLIJALの選んだ本を展示していただいています!

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 CLIJALではメンバーが厳選した本と本の説明(日本語・ポルトガル語・スペイン語の参加国語)、写真パネルや地図、ラテンアメリカの民芸品などをパッケージにした「図書展セット」を貸し出しています。 2025年4月から5月にかけての1ヶ月ほど、JICA筑波の図書室で展示していただいています。 4月19日の一般公開日におじゃましてきました。ニカラグアから来られている研修生による絵本の読み聞かせもあり、大盛況でした! 写真は展示の様子です。 図書展セットは随時貸し出しています。詳細は こちら ぜひ、ご活用ください! お問い合わせをお待ちしています。

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.2 道はみんなのもの

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道はみんなのもの クルーサ文 岡野富茂子・岡野恭介 共訳 モニカドペルト絵 さ・え・ら書房2013年1月発行 ISBN978-4-378-04136-0 本の詳しい紹介は こちら つまらなさそうに遠くの町並みを眺めている子どもたち。下に広がるのは、近代的なビルと大きな道をどんどん走っているトラックやバス。表紙から裏表紙にまで続く1枚の絵で対比されるトタン板の家の建つ赤茶けた場所との違いにびっくりすることでしょう。 ここに描かれているのは、ベネズエラの首都カラカスです。南米北部、カリブ海に臨む自然豊かな国ベネズエラは昔はコーヒーなどの輸出で有名でした。1920年代に入って石油輸出を始めると、地方の町や村から人々が都市へやってきました。カラカスでも、街を取り巻く山の斜面に急ごしらえの家を建てて仕事を求めてやってきた人たちが暮らし始め、そのようにしてできた集落が「バリオ」と呼ばれています。 山の自然はすっかりなくなり、子どもたちの遊び場所は、家々の間の狭い道だけ。それでも、うるさいと怒られ、車が入ってくると「こんなところで遊ぶんじゃない」と怒鳴られる始末。「道はみんなのものだよ」と口答えしても、大人は誰も聞いてくれません。それで表紙の子どもたちはふくれっ面をしていたのですね。 バリオの中には普通の家を改造した図書館がありました。本を読んだり、ゲームをしたり、 粘土遊びやお絵かきもできるけれど、やっぱり外で遊びたい。どうしたら自分たちの遊び場が持てるのかと考え込んでいると、図書館員が子どもたちの意見に耳を傾け、背中を押してくれたのです。「遊び場がありません。公園を作ってください」と書いた横断幕と意見書を持って、市役所に出かけた子どもたちは市会議員か市長に会わせてほしいと言うのですが・・・。 この絵本は、バリオに住み、遊び場がほしいと願っていた子どもたちが実際に体験したことを元にしたお話なのだとか。子どもたちの行動力が頼もしく、市会議員の欺瞞や大人の身勝手さにびっくりしつつも、この1人ひとりの有り様が社会そのものを表しているのだなと感じられます。 やがて、自分たちの手で公園を作り始める住民と子どもたちの姿に、読者も嬉しく思うはず。自分たちの思いをしっかりと伝えて、自ら行動する子どもたちを支え、見守る大人が図書館にいることが素敵。本の力、教育の力を大切に思っている作家ならではの...

【絵本で知ろう!ラテンアメリカの国】Vol.1 アンデスの暮らしを知ろう 

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じゃがいもアイスクリーム? 市川里美 作 BL出版 2011年7月発行 1400円+税 (ISBN9784776404590) 本の詳しい紹介は こちら 地球ものがたり インカの村に生きる 関野吉晴 著 ほるぷ出版 2012年10月発行 1800円 + 税 (ISBN9784593586783) 本の詳しい紹介は こちら 15世紀に始まる大航海時代にスペインやポルトガルの植民地にされた中南米・カリブ地域では、それ以前からそこにいた先住民、ヨーロッパ系の人々、その後連れてこられたアフリカ系の人々の文化などが混ざりあっています。 ブラジル以外の大半の国々ではスペイン語が話されていますが、 アンデス山脈一帯にはケチュア語やアイマラ語を話す先住民がいます。今回ご紹介する絵本の舞台はペルーのアンデスの高地です。描かれているのは「ペルーの」というよりも、ボリビアなどにも広がるアンデス山脈の先住民の文化です。 物語絵本 『じゃがいもアイスクリーム?』の見返しには、アンデスの村の全景が見えます。 主人公の少年の住む標高4000メートル (富士山よりも高い!) の村は、ジャガイモしか採れません。ごはんもおやつもジャガイモ。でも、ジャガイモといっても種類は豊富です。ここはジャガイモのふるさとなのです。 幼児・小学校低学年から、お話を楽しみながらアンデスの暮らしに親しめます。実際に現地で取材した著者の温かい絵からは、色あざやかな毛糸の帽子や衣服、家の中、アルパカを飼いジャガイモを収穫する様子などが伝わってきます。ジャガイモでどうやってアイスクリーム ができるのか、興味がわいてきます。 もう1冊、探検家の関野吉晴さんのノンフィクションの写真絵本『地球ものがたり インカの村に生きる』は、ペルーの山奥の、日本人が誰も行きそうにない村で撮られた貴重な記録です。 厳しい自然の中、常に集まり、話し合い、力を合わせる家族やコミュニティ、家畜の世話など役目を負いながら遊ぶ子どもたち。その日常のさまざまな表情をカメラがとらえます。 保存用の乾燥ジャガイモはこんなふうに作られるのか、アルパカはこんなに役に立つのか、トウモロコシにはピンクや紫などこんなに種類があるのかなど、見るたびに驚きや発見があり、3・4年生から大人まで楽しめます。ゆっくりと本をめくれば、深く心にとどまる自分だけの気づきや考察につながること...