2012年11月11日

『そんりさ』にご掲載いただきました。

『そんりさ』は1992年に設立されたRECOM(日本ラテンアメリカ協力ネットワーク)の会報誌です。RECOMは中南米の支援と情報発信を続けている団体で、主な活動は会報誌「そんりさ」の発行や、グァテマラ基金によるグァテマラ共和国の女性団体支援などです。許可を得てその内容を転載させていただきます。

 日本ラテンアメリカ子どもと本の会(CLIJAL)について
    
 はじめに 日本ラテンアメリカ子どもと本の会は、日本とラテンアメリカの人びとを、子どもの本を通じてつないでいきたいという思いで、2009年に結成されたボランティアのグループです。メンバーは、スペイン語やポルトガル語文学の翻訳や、スペイン語圏の文化などの紹介に携わる人、また、子どもの本の作り手、図書館関係者などからなっています。
 結成の背景 私たちがこのようなサークルを結成したのは、この20年近くの間に、日本に住むラテンアメリカにつながる人びととその子どもたちの数が増えたことにあります。1990年の入管法の改定によって、南米の国々から多くの日系の人たちやその家族が来日し、この国で働くようになりました。
 なかでももっとも多いブラジルとペルー二か国の外国人登録者数は、一時期には37万人を超えました。最初は日本を単なる出稼ぎ先と考えていた人たちのなかにも、家族を呼び寄せる人、日本で結婚し子どもが生まれる人も出てきました。子どもたちのなかには日本の学校に通う子どももいましたが、ブラジル人学校や通信教育などで、ポルトガル語やスペイン語で教育を受ける子どもたちもいました。しかし、2008年秋のリーマン・ショック以降、仕事がなくなった親と一緒に帰国する子どもや、通っていた民族学校が閉鎖される子どもたちがでてきました。2011年末の統計では、二か国の登録者合わせて27万人(ブラジル:21万人、ペルー:5.2万人)ですが、年齢層でみると0歳から19歳の滞在者数が全体の2割強で、子どもの教育がコミュニティの大きな関心事となっていることがうかがえます。  
 日本にくらす子どもたちが感じる不自由はさまざまです。学校では、親たちが日本の教育制度をしらないために起こる問題、個性を認めず”マジョリティ”の文化をおしつけるような風潮、言語の問題が原因で起こる学力不足。また、出身国でスペイン語やポルトガル語で教育をうけた親世代との間での、家庭内でのコミュニケーションの問題など。そんなようすを見て、私たちは「本」を中心にして何かできることがあるのではと考えるようになりました。なぜなら、本は自分をうつす「鏡」や、広い世界への「窓」となって読む者に生きる力を与えるばかりでなく、おとなに読み聞かせをしてもらう、絵本などで文字にふれるといった体験は、子どもにとって日本語または継承語での識字能力を育てるうえでとても大事だと考えたからです。  
 とはいえ、個人で洋書を取り寄せるのは決して簡単なことではありませんし、公共図書館の外国語サービスは、一部の集住地域では熱心な取り組みがされているものの、児童書まではなかなか手がまわらないというのが実情です。すでに多くの方たちが、子どもたちの補習やさまざまなサポートに取り組んでおられますが、子どもの本を通してのアプローチはまだ少なく、私たちに手伝えることはないだろうかと活動を始めました。
 図書展の開催 活動を始めるにあたって、私たちはメンバーそれぞれの経験を持ち寄り、また、子どもたちの現況を知るために、専門家や支援ボランティアの方たちのお話を聞き、学校などにも足を運びました。そのなかで気づいたことは、子どもたちをとりまく日本の人びとのあいだで、まだまだラテンアメリカのことが知られていないということでした。(ラテンアメリカに限りませんが)。
 その原因のひとつとして、テレビなどの大きなメディアが流すラテンアメリカの情報が、古代遺跡やアマゾンの自然、カーニバルなど、目をひきやすい限られたものになりがちなことがあります。そこで私たちは、日本で出版されている、人々の暮らしぶりや文化、心情、歴史などを伝える子どもの本を皆で読みあって、おすすめしたいと思ったものを展示することにしました。選書にあたってはインターネット上の非公開の掲示板を利用し、およそ10名で一年半ほどかけて、5回の選書会議を重ね108冊のリストを作りました。展示する本には、保護者にも配慮して日本語、ポルトガル語、スペイン語の3カ国語の解題をつけました。
 そして、これらの本を、日本人と在日のラテンアメリカ出身の人びとが同じ場で分かち合ってもらうため、ブラジルやペルーにつながる住民が多く、多文化共生に先進的な取り組みを行う横浜市鶴見駅前にある区立のギャラリーを会場に選びました。子どもゆめ基金からのご支援をうけ開催された12月22,23日の「開いてみよう!見てみよう! 子どもの本でラテンアメリカめぐり展」では、本とともに、風景や人の写真、民芸品を展示してラテンアメリカの雰囲気を味わってもらい、本の内容にもとづくクイズラリー、スペイン語やポルトガル語で書かれた絵本を自由に読めるコーナーや、切り紙、心配引き受け人形といった絵本に登場する手仕事の文化を紹介し、実際に自分で作ってもらうワークショップを実施しました。また、日本とボリビアふたつの国をルーツにもつ少女を主人公にした『わたしはせいかガブリエラ』(福音館書店)の作者東郷聖美さんと一緒に絵を描くという企画や、読み聞かせ、日本で出版されたコロンブス関連の児童書を通して歴史を知るための展示も行いました。この様子は会のブログでご覧いただけます。
 二日間の来場者はおよそ260人。親子連れや地元のブラジル人学校の生徒さんたちも来場してくれましたし、横浜市内だけでなく、都内、関西地方のラテンアメリカ出身者の支援にたずさわっている方々や、ラテン・コミュニティのなかで子どもの支援にかかわる先生やお母さん、展示された図書の著者の方や司書の方、学校の先生、日系ブラジル人向けのテレビ局、出版関係者など多くの方が熱い関心を寄せてくださいました。
 今年3月には、大崎で開催された子どもの本の日記念フェスティバルに参加しました。こちらでは、鶴見で展示した図書を使い、ペルー出身のカルメン・ディアスさんや、ブラジルの絵本の翻訳者松本乃里子さんにご協力をいただいて、ペルーの昔話の語りや、絵本『やんちゃなマルキーニョ』(ジラルド作、静山社)の読み聞かせ、お人形づくりのワークショップなど、小規模ながら充実したものになりました。
 これからの活動 こうした本のセットの貸し出し(今秋は愛知県内の小学校で一か月間の図書展が予定されています)のほかにも、これまでの活動のなかで出会った方たちから、ラテン・コミュニティを対象としたお話会や、国際交流イベント、図書館の選書に関するご相談なども受ける機会が出てまいりました。小さいグループではありますが、米国やカナダで出版されているようなバイリンガルの絵本の製作にもいつか取り組めたら、と大きな夢も抱いています。こちらのニュースレターでも、今後ラテンアメリカの子どもの本に関する情報などを紹介していきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。(文責・伊香祝子) そんりさ139号(2012年10月6日発行)に掲載


日本ラテンアメリカ協力ネットワーク http://www.jca.apc.org/recom/
11月11日からはECAP(社会心理行動と共同体研究グループ)のファシリテーターであり、グアテマラ先住民族のマヤ・ケクチ女性アナ・アリシア・ラミレス・ポップさんを招いたスピーキングツアーが全国で行われるそうです。詳しくは上記HPをどうぞ。