2016年9月5日

日本ラテンアメリカ子どもと本の会(CLIJAL)の活動から〜日本ブラジル外交関係樹立120周年〜

日本ラテンアメリカ子どもと本の会(CLIJAL)の活動から
日本ブラジル外交関係樹立120周年     
小高 利根子
 2015年は日本とブラジルの外交関係樹立120周年の記念の年で、年間を通じて様々な記念行事が行われました。首都ブラジリア建設で有名な建築家オスカー・ニーマイヤー展は東京現代美術館で7月から10月まで長期的に開催されましたし、ネルソン・ロドリゲスの演劇「禁断の裸体」上演、各種展示会、講演会、コンサート、映画上映、テレビ番組などが目白押しでした。

私たち「日本ラテンアメリカ子どもと本の会」に直接関係があることとしては、2014年に子どもの本の分野で最も歴史のある大きな賞・国際アンデルセン画家賞を受賞したホジェル・メロ展とブラジル児童文学の金字塔『ぼくのオレンジの木』の日本語版出版の二つが挙げられます。

 ホジェル・メロ(Roger Mello)展は4月から5月にかけて福岡県立美術館で、また8月から10月までは東京のちひろ美術館で開催されました。メロは1965年生れの画家。百冊以上の絵本を手がけましたが、そのうち20冊はテキストも自ら書いています。今回の展示では代表作14作の原画100点とその場面の日本語訳、資料、ブラジルのお祭りなどにまつわる品、飾り物などが展示されました。14の絵本は内容別に大きく3つに分かれています。ひとつはブラジルの歴史や伝説、伝統文化に関する本、もうひとつは社会問題を扱ったもの。そして最後に世界を旅した経験に基づく作品。このうち二番目のブラジルの社会問題を直接扱っている本は私も発売と同時に入手していて、なかでも一番気に入っているのは『マングローブの子どもたち』。貧しい中でも生き生きとした子どもたちの生活がコラージュを交えた美しい挿画と共に描かれています。すでに翻訳もできているのですが、なかなか出版社を見つけられずにいます。もうひとつ『炭焼き少年たち』というのは児童労働を扱った作品で、山火事の炎が飛び出してきたり、特殊な塗料を使ったり…ととても意欲的なもの。内容的には子ども向けの絵本というよりは大人向けだろうと思います。

 『ぼくのオレンジの木』(原題:O Meu Pé de Laranja Lima,1968)はジョゼ・マウロ・デ・ヴァスコンセーロス作、永田翼・松本乃里子共訳でポプラ社から出版されました。11月にブラジル大使館で開かれた出版記念会の席上、文化担当官のペドロ・ブランカンチ・マシャード氏は「ブラジル人なら誰でも知っていると言ってよい話。ほとんどの学校が課題図書に選んでいて、ぼくも昔、読みました」とコメントしています。私にとっても思い出深い本で、ポルトガル語を勉強し始めて、原書を初めて通読して深い感銘を受けたのが本書でした。主人公は5歳の感受性豊かな男の子ゼゼー。父親が失業してからは貧しさのため靴磨きで少しでもお金を稼がなくてはなりません。わんぱくで大変ないたずらをやらかしてしまうゼゼーは家族から殴られてばかり…。貧しさが高じれば人々の心はすさみ、子どもたちは子どもでいることが許されず、単なる働き手としか見られなくなります。


 子どもの貧困が大問題となっている今の日本では、この物語がひとごとではなくなってきました。地球の反対側の国の話としてではなく、自分たちの問題として、ぜひ大人の方たちに読んでいただきたい物語です。