2013年1月22日

『そんりさ』にご掲載いただきました(その2)

RECOM(日本ラテンアメリカ協力ネットワーク)の会報誌『そんりさ』に連載中の記事の内容を、許可を得て転載させていただきます。

CLIJALの活動から  〜図書展をもりあげたパペルピカド〜 -

 前号のニュースレターで、日本ラテンアメリカ子どもと本の会(CLIJAL)について、結成の経緯やこれまでの歩みをご紹介しました。昨年(2011年)12月に鶴見で開催した図書展「開いてよう!見てみよう!子どもの本でラテンアメリカめぐり展」は、私たちにとってはじめての大きなイベントでしたが、今回は、その会場をいろどり、脇役として図書展をもりあげたパペルピカドpapel picadoについて、すこしお話したいと思います。

 絵本の中のパペルピカド  メキシコの切り紙パペルピカドは、お祭りやパーティで飾られたり、土産品として売られていますから、メキシコを訪れた人なら色とりどりの万国旗のようなそれを、かならず目にするのではないでしょうか。じつは絵本の中にもパペルピカドを見つけることができます。図書展で展示した『ポインセチアはまほうの花』と『クリスマスまであと九日』の二冊はメキシコを舞台にした絵本で、前者の挿画には印象的に、後者ではさりげなく、パペルピカドが描きこまれています。
 まずはストーリーをご紹介しましょう。『ポインセチアはまほうの花』の主人公の女の子は、クリスマスイブを悲しい気持ちで迎えようとしています。父親が仕事をなくし、その年はイエスさまへのおくりものを用意することができないのです。教会にやってきた彼女に石像の天使がささやきます、傍らにある草の葉をもっていきなさい、と。緑の葉をかかえた彼女が祭壇へ近づくと、それはいつのまにか燃えるような赤い花束となり、少女は喜びにあふれてこのおくりものをささげました。真心の尊さを伝える奇跡の物語です。幼少期にたびたびメキシコを訪れた米国人の作者がこの言い伝えに出会い、アルゼンチン人のイラストレーターと美しい絵本に仕上げました。
一方、『クリスマスまであと九日』は、幼い少女セシが、やってくるポサダ(クリスマス前九日間の伝統行事。マリアとヨセフの宿屋(ポサダ)さがしに見立てた行列とパーティを行う)に心躍らせるさまをたんねんに追ったもので、作者はやはり米国人です。ポサダで使うピニャタ(お菓子を入れたくす玉人形)を並べ売る賑やかなマーケットの天井に、パペルピカドが吊されています。二冊とも外国の作家による絵本ですが、いずれにもメキシコの人びとへの深い愛着と敬意が感じられます。とりわけ『ポインセチアはまほうの花』に描かれたパペルピカドは、クリスマスを待つ人びとの敬虔な心やこの時期の高揚した空気を伝えながらはためき、またそこには少女の複雑な気持ちも混じり、忘れがたい印象を残します。

 パペルピカドのワークショップ  さて今回の図書展は、ラテンアメリカについて書かれた子どもの本をみなで楽しむ場として企画されました。しかし、本が並んでいるだけで人びとは足を運ぶだろうか。すでに本に親しんでいる子どもだけでなく、本を開く機会の少ない子どもたちもやってきて本にふれてもらうには・・・。そこで思いついたのが、パペルピカドの出てくる絵本を紹介し、それから実際にパペルピカドをつくって楽しむというワークショップです。さっそくワークショップ班をつくり、パペルピカド作家でもあるチカーノ・アーティストによる「つくり方」の本を手引きに、試行錯誤がはじまりました。メキシコのパペルピカドについての本格的な書籍は日本にはあまりないように思います。とくにそのルーツについては、用いられる薄紙がpapel chinoと呼ばれることから中国との関わりも想像されますが、くわしい歴史はわかりません。もしご存じの方がおられたらぜひ教えていただきたいと思います。市販のパペルピカドのほとんどは、カッターまたは機械(大量生産の場合)でつくられているようですが、さきの本ではハサミを使います。家庭で誰でも楽しめるやり方です。紙を縦横あるいは斜めに何回か折りたたんでから切り込みを入れますが、折り方を変えることで同じ切り込みでも開いたときの模様がちがってくるのです。(写真はワークショップで説明に用いたパネル ©CLIJAL, F.Uchino)

幾重にもたたむことから、紙はやはり本場のpapel chinoような薄さでなければなりません。素材さがしもひと苦労でしたが、意外にも近所の花屋で包装用に幾色もとりそろえているのを見つけ、落着。また、切り込む模様には星、花、鳥、虫などさまざまなモチーフが可能ですが、型紙を用意し、数種類の模様を再現できるようにしました。こうして迎えた当日のワークショップには、子どもから大人まで大勢が参加し、本の傍らでパペルピカドづくりに熱中しました。折りたたんだ紙を開くとき、またできあがりをずらりと並べて吊すときは、パペルピカドの魅力が花開く瞬間でした。

 おわりに  本に関連するこのようなワークショップは、図書館関係の方々からの関心も高いことがあらためてわかりました。ラテンアメリカの豊かな手仕事の文化は、子どもや子どもの本との接点において、こうした試みのさまざまな可能性を秘めているように思います。今回の図書展では、パペルピカドのほかにグアテマラの《心配ひきうけ人形》づくりのワークショップも行いましたが、こちらについてもあらためてご紹介できればと思っています。(文責 網野真木子)

*『ポインセチアはまほうの花 メキシコのクリスマスのおはなし』(ジョアンヌ・オッペンハイム文、ファビアン・ネグリン絵、宇野和美訳、光村教育図書)/『クリスマスまであと九日 セシのポサダの日』(マリー・ホール・エッツ&アウロラ・ラバスティダ作、マリー・ホール・エッツ画、たなべいすず訳、冨山房)/ 参考文献:Carmen Lomas Garza, Making Magic Windows: Creating Cut-Paper Art With Carmen Lomas Garza, Children's Book Press, USA / 同じ著者によるIn My Family/En mi familia, Children's Book Press (英/西二カ国語版)もパペルピカドやメキシコ系の人びとの暮らしを伝える絵本として、図書展で原書展示しました。
*今後こうしたワークショップのマニュアルも整備していきたい考えです。関心のある方はtclijal@gmail.com までお問い合わせください。


 そんりさ140号(2012年12月8日発行)に掲載
 日本ラテンアメリカ協力ネットワーク http://www.jca.apc.org/recom/